社会

北朝鮮&イランとアフガン掌握タリバンが恐怖の“反米”テロ同盟!

(画像) Jihan Nafiaa Zahri / shutterstock

8月15日、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力『タリバン』が、首都カブールを占領した。

これに先立ち、いち早くガニ大統領が出国したのをはじめ、政権関係者や各国の外交官、そしてアフガン市民らが我先にと国外脱出を図り、同国は大混乱に陥った。

22日には、タリバン戦闘員による発砲音をきっかけに空港がパニック状態となり、少なくとも7人が圧死したといわれるが、とにもかくにもタリバンは、またもや米国に屈しないことを証明してみせた。

「アフガンは地理的に、外部からの侵略者を寄せ付けない山岳地帯に国を築いている。東と南はパキスタン、西はイランに接し、北はトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、そして北東は中国と国境を接しています」(国際ジャーナリスト)

同国に対しては、19世紀から英国、ロシア(ソ連)、米国という大国が支配を試みたが、いずれも野望を実現できずに撤退している。そんな歴史もあって、誰が言い出したのか「帝国の墓場」とも呼ばれている。

「しかし、歴史から学ばない中国の習近平国家主席は、これまでと同じ『米国が出て行った空白地域に必ず侵出する』という鉄則通り、早くもアフガンに触手を伸ばしています」(同)

中国国営『新華社通信』によると、8月19日に王毅外相が、アフガンの後ろ盾であるパキスタンのシャー・マフムード・クレシ外相と電話会談を行った。その中で、アフガンの政権移行がスムーズにいくよう、今後の連携強化に同意するなど、すでに活発な動きを見せている。

「中国はタリバンとの友好関係を維持しながら、アフガンを自国の支配下に置くことを狙っている。もしアフガン進出がかなえば、中国は数少ない友好国であるイランと、地理的にも親密な関係を築きやすくなり、米国をけん制することができるからです」(軍事アナリスト)

中国が関心を寄せるアフガン埋蔵レアアース

さらに、アフガン進出は習主席が提唱する「一帯一路」プロジェクト(現代版シルクロード経済圏構想)にもプラスになる。そして、何よりも中国は、アフガンに埋蔵されているレアアース(希土類)に並々ならぬ関心を寄せている。

「レアアースは熱伝導率が高く、環境の変化にも性質を維持する恒常性を備えているため、半導体やバッテリーなどの先端産業や軍需産業に幅広く利用されている。アフガンには最大で3兆ドル規模のレアアースが埋蔵されていると推定され、世界の資源占有を狙う中国が、このお宝を見逃すはずがありません」(同)

とはいえ、この軍事アナリストも、両国が対米戦略で互いに利用し合うことはあっても、本来、イスラム過激主義と中国共産党は敵対関係にあるため、それほど深く連携することはできないと指摘する。

タリバン政権の「過去」を知る米国、英国などの西側諸国は、報復、テロ、破壊行為の再現を恐れ、その復活に戦々恐々としている。

また、北朝鮮が中国に隠れて、パキスタン南西部からの独立を訴える反政府武装勢力『BLF』(バルチスタン解放戦線)と手を結び、「恐怖のテロ同盟」が形成されることにも警戒を隠さない。

北朝鮮の金正恩総書記は逼迫した経済状況を打破するため、虎視眈々とアフガンとの連携を模索しており、早晩タリバン政権を承認するとの見方が強まっている。

米国の同盟国である韓国は、アフガンに大使館を置いており、大使館員らは米軍機で脱出したが、北朝鮮は大使館を置いておらず、アフガン情勢については沈黙を続けていた。しかし、8月20日になって初めて外務省のホームページを通じ、米国批判を展開している。

水面下で結ばれている北朝鮮とタリバン

北朝鮮は中国同様、タリバン政権の復活を歓迎しているだろう。というのも、北朝鮮とタリバンは表向きはともかく、水面下では深い絆で結ばれているからだ。

「北朝鮮は1973年に、アフガンと大使級外交関係を結んでいますが、これまでタリバン政権を承認したことはありません。アフガンに侵攻した『同盟国』のソ連と戦ったため、タリバンを反共勢力とみなしてきたからです」(同)

しかし、2001年の米国によるタリバン政権への武力行使以降、北朝鮮は反米、反外国勢力という点でシンパシーを抱き、タリバンとの「連帯」を表明した。直接的な軍事協力関係はなかったものの、パキスタンを経由して武器が渡っていた。

実際に金正日総書記(当時)は、01年5月に初めて訪朝したEU代表団に対し、「我々は求められれば売る」と明言していた。今回のアフガン急変でも、「死の商人」としての北朝鮮の動向が注目されている。

ただし、北朝鮮は表面上、対米関係の悪化を危惧してテロ行為に反対してきた。01年に発生した「9・11米国同時多発テロ事件」以降は、外務省を通じて「我が国は国連加盟国として、いかなる形態のテロやテロ支援にも反対する」と表明するなど、米国のご機嫌取りに腐心する様子も見られた。

北朝鮮が当時、一転してウサマ・ビンラディンらの反米行動に背を向けた理由は、米国による「テロ支援国」のレッテルを剥がすことが最優先されたからだ。01年11月に、「反テロ」を盛り込んだ国際条約に署名したのもそのためだった。

しかし、だからと言って北朝鮮が、これまで米国の軍事行動を黙認したことは一度もない。01年10月、米国のアフガン爆撃について、北朝鮮の国連大使は「武力行使は正当化できない」と表明しているのだ。

タリバンの“脱・麻薬”に疑問の声

「01年12月8日付の政府機関紙『民主朝鮮』では、米国のアフガン爆撃を黙認していた中国とロシアを間接的に批判していたほどです。こうした北朝鮮の首尾一貫した反米姿勢に、孤立していたタリバンは感謝しているはずです」(前出・国際ジャーナリスト)

実のところアフガンの財政は、かなり危機的状況にある。同国は農業が主要産業だが、国内の戦乱を経て疲弊は深刻だ。年によってばらつきはあるが、国家予算の5〜8割は海外からの支援が占めている。

『国際通貨基金』(IMF)は「援助があるから経済が崩壊しなかった」と、厳しい指摘をしている。ところが、タリバンが実権を掌握したことで、すでに欧米各国は相次いで資産凍結や支援中止を表明しており、アフガンの困窮が一気に深まることは確実だ。

そのため各国には、タリバンが重要な資金源としてきた「麻薬ビジネス」に一層、傾倒する懸念が広がっている。米紙『ウォールストリート・ジャーナル』(電子版)は、麻薬ビジネスに代表される既存の収入源は「(海外支援の)損失を部分的に相殺するのに十分な金額だ」と分析している。

「アフガンはアヘンやヘロインの原材料であるケシの一大産地。20年に世界で出回ったアヘンの84%がアフガン由来と推定され、ほとんどがタリバンの支配地域で生産されている。薬物密売などの収益を含めると、麻薬ビジネスは国内総生産(GDP)の11%に達するとの推計もあるほどです」(違法薬物の流通に詳しいジャーナリスト)

タリバン報道官は8月17日の記者会見で、「麻薬の生産も、麻薬の密輸もしない」と発言したが、その条件として「ケシ以外の作物を栽培するため、国際社会の援助が必要だ」と支援を要請している。

とはいえ、現状のタリバンは「全国民に恩赦を与える」と融和姿勢を打ち出す一方、ガニ政権に追随したというだけで、無防備なアフガン市民に対して殺害や暴行を繰り返しているだけに、報道官の「脱・麻薬ビジネス」発言には疑問の声が上がっている。

今後、アフガンにタリバン新政権が発足する中で、麻薬ビジネスの行方が注目される。また、その影響で北朝鮮の麻薬ビジネスが活性化する恐れもあり、先の武器支援を含め、北朝鮮の対アフガン戦略に目を光らせる必要があるだろう。

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