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安倍晋三VS麻生太郎「全面戦争」の萌芽! 相容れない“岸と吉田”の遺伝子

安倍晋三、麻生太郎
安倍晋三、麻生太郎 (C)週刊実話Web

「私には夢がある。日本をもう一度、世界一の国にすることなんです。日本を創ったと言われる政治家になりたいんですよ」

先の衆院選開票日2日前の10月29日、自民党志公会(麻生派)所属の甘利明前幹事長は、自身の落選危機が伝えられる中、他候補の応援演説を取り止め、地元・神奈川13区に張り付いていた。マイクを握り、自らの野望を冒頭のように言い放った。

別の場所では「チーム甘利から大臣が出ている。経済再生大臣の山際大志郎君も、経済安全保障大臣の小林鷹之君も。私の派閥横断の勉強会には松野博一官房長官だって入っている」と首相気取りだった。

「私がいなければ、日本が立ちいかないという自負だってあります。経済界は全員分かっていますよ。関係官界もみんな分かってますよ。でも、世の中の人はほとんどが分かっていない。私は日本の未来にとって大事な政治家という理解だけしていただきたい」

こう一般国民をバカにしたかのような演説までした甘利氏。こうした上から目線の偉そうな演説をしていることを知った安倍晋三元首相は顔をしかめ、安倍氏周辺は「自分がいなければ、日本が立ちいかないだなんて、自分で言うことではない」と呆れ返った。

甘利氏といえば、安倍氏、麻生太郎副総裁とともに「3A」と呼ばれる重鎮。ただ、いつの時代も血筋は物を言うもので、岸信介元首相を祖父に持つ安倍氏と、吉田茂元首相を祖父、大久保利通を高祖父に持つ麻生氏の間に割って入れず、安倍、麻生両氏に比べると格下の位置に甘んじていた。そんな甘利氏が岸田文雄政権誕生の立役者になり、幹事長に就任したことで、舞い上がっていたのは間違いない。幹事長就任の要請を受けた際、2016年の経済再生相辞任につながった現金授受疑惑について「大丈夫だ」と周囲に漏らすほどやる気満々だった。

結局、我が世の春は長くは続かず、幹事長としては前代未聞の選挙区での落選という憂き目に遭い、幹事長辞任を余儀なくされた。だが、甘利氏の影響力が今後、消えることはないだろう。事実、甘利氏が言う通り、松野官房長官は甘利氏が主宰する勉強会『さいこう日本』のメンバーであり、山際氏は側近。何よりも、岸田首相は甘利氏に絶大な信頼を寄せているのだ。

安倍元首相が警戒する大宏池会構想

松野氏の起用を巡っては、岸田首相が、安倍氏の出身派閥の清和政策研究会(清和研)から起用することで安倍氏に配慮したとの見方があるが、それは間違っている。清和研には安倍氏の父・晋太郎元外相から連なる「安倍系」と、福田赳夫元首相の「福田系」の2つの系譜があり、松野氏は福田系に位置付けられる。12年の総裁選では、清和研から、福田系に連なる町村信孝元外相と安倍氏が出馬し、松野氏は町村氏を支援した。つまり、安倍氏とは距離がある人物なのだ。

官房長官には当初、安倍氏側近の萩生田光一経済産業相が検討されたが、岸田首相側近の木原誠二官房副長官が、気心が知れた人物がよいとして松野氏を推した経緯がある。そして、麻生氏が副総裁としてにらみを利かす党側では、閣僚経験者が就くのが通例となっている総務会長に今回4期目の当選を果たした閣僚未経験の福田直系の福田達夫氏が抜擢された。ある閣僚経験者はこれも「安倍氏にとって面白くないはず」と語る。

そこに安倍氏の意向など存在しない。あるのは麻生、岸田首相が見据える野望、すなわち、大宏池会構想の実現に他ならない。甘利氏とて宏池会と無縁とはいえ、今ではれっきとした麻生派所属議員だ。大宏池会結成の暁には、甘い蜜をまた吸える立ち位置にいる。

宏池会(岸田派)は1957年に池田勇人元首相を中心に結成された派閥で、源流は吉田茂元首相が作った「吉田学校」にある。宮澤喜一元首相の後継を巡り、加藤紘一元幹事長と河野洋平元総裁が対立。河野側に立った麻生氏は派閥を追われた。麻生氏にとって大宏池会は悲願であり、岸田首相にとっても歓迎すべき話なのは言うまでもない。

この大宏池会構想を最も警戒しているのが安倍氏だ。総裁選に目を転じると、「安倍氏が高市早苗政調会長を支援したのは、岸田首相を誕生させるため」(自民党幹部)という見方があるが、これも半分は当たっているが、半分は間違っている。安倍氏は思想的に相容れない、河野洋平氏の長男で、父親とともにリベラルで麻生派の河野太郎前ワクチン担当相の当選を何としても阻みたいと考えていた。ただ、一般党員の支持率が最も高かったのは河野氏で、1回目の投票で過半数を獲得しかねなかった。

このため、1回目で票を分散させ、国会議員票が中心の決選投票に持ち込み、岸田氏を当選させる必要があった。そのための手駒が高市早苗政調会長だった。

タカ派とハト派という異なる2つのDNA

もっとも、安倍氏は「岸田氏が当選すればそれでよし」と考えていたわけではない。伝統的にハト派色が強い〝お公家集団〟と揶揄される宏池会が規模を拡大させ、自民党がリベラル色に染まってしまえば、首相として築き上げた真の保守政党としての自民党の性格が様変わりしてしまう。安倍氏は、これも恐れた。

実際、自民党内には例えば選択的夫婦別姓制度について賛否が割れており、安倍政権が終焉して以降、ジワリとリベラル的な思想が浸透しつつある。憲法改正にしても、岸田首相は安倍氏の存在を意識し、前向きなことは言うものの、言葉に熱量が感じられない。さすがハト派宏池会出身の首相と言わざるを得ない。

安倍氏を師事し、保守政治家を自任する高市氏を本気で、支援した理由はそこにある。高市氏への支援をやりすぎて、1回目の投票で国会議員票では河野氏が86票なのに対し、高市氏は114票と河野氏の票を上回ったほどだ。

衆院選ではツイッターなどで、自身が街頭演説したときに集まった、何千人という聴衆を動画で流し、自らの力を誇示してみせた安倍氏。総裁選、衆院選で十分に存在感を発揮したが、それでも麻生氏と岸田氏が突き進もうとする大宏池会構想への懸念は深まるばかりといえる。

幹事長を辞任した甘利氏の後任には、安倍氏とも良好な関係にはあるが、特に麻生氏がかわいがっている、事実上、平成研究会(旧竹下派)を取り仕切る茂木敏充外相が就任。茂木氏の後任の外相には、先の衆院選で参院議員からくら替え当選した岸田派の林芳正元文部科学相を充てた。林氏は日中友好議員連盟の会長を務めており、中国や韓国など周辺国との関係を重視する宏池会の伝統を忠実に受け継いでいる。伝統的にタカ派といわれる清和研出身の安倍氏には受け入れ難い人選といえる。しかも、安倍家と林家といえば、安倍氏の父・晋太郎元外相と、林氏の父・義郎元蔵相は、中選挙区制時代に旧山口1区でしのぎを削った因縁の関係だ。

「このまま事態を放置して、大宏池会構想が実現してしまえば、清和研は第1派閥の座から転落しかねない。築き上げた永田町のパワーバランスも変わってしまう。こうした懸念で安倍氏は相当苛立っている」(前出・安倍氏周辺)

日米安保条約を改定するとともに憲法改正を訴え続けた岸元首相と、軽武装・経済重視路線の吉田元首相。安倍氏にとって憲法改正は悲願で、麻生氏も改憲論者とはいえ経済運営に軸足を置いている。ベテラン政界関係者はこう予測した。

「タカ派とハト派という異なる2つのDNAは脈々と受け継がれ、盟友関係が引き裂かれる可能性は十分あり得る」

2A全面戦争のカウントダウンが始まった。

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