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アウトレットとは違う新業態「オフプライス」の未来~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

長期不況といわれてきた日本のアパレル業界だが、そんな中で「オフプライスストア」(以下、オフプライス)という新業態が脚光を浴びている。有名ブランドを中心に2~9割引き商品がズラリと並ぶだけに、店舗を訪れる消費者が急増しているのだ。

オフプライスの現状と日本国内に浸透した経緯について、アパレル業界関係者が解説する。

「オフプライスとは、メーカーなどから売れ残り商品を買い取り、激安で販売する店舗で、アメリカなどでは7~8年前から広く普及しています。日本でも2年ほど前から店舗がオープンし始め、昨年来のコロナ禍とともに新規参入が相次ぎました」

オフプライスが急速に普及した背景には、アパレル業界の深刻な事情がある。

「昨今の国内アパレル業界は製造コストを下げるため、中国やベトナムなどに大量発注してきました。売れれば万々歳、しかし、売れなければ在庫の山を抱えることになります」(同)

それなら最初から売り上げを予測し、発注すればいいという指摘もあるが、衣類の売り上げは暑さ寒さなど、その年の天候に大きく左右される。

「また、アパレルは何がきっかけで大流行し、爆発的に売れるのか予測が難しい。一方で家賃や人件費など、固定費負担の大きい実店舗の売り上げを維持するためにも、簡単に生産量は減らせない。爆発的に売れたら、売れなかったシーズンのマイナスをカバーできるからです」(同)

国際的に批判が高まる焼却処分

日本では年間29億着の衣服が供給されている。商品は定価で2カ月ほど販売された後、値下げしてセール品となり、売り切れなかった場合は「アウトレットモール」などに流れる。それでもさばけない約15億着が、ブランド価値を保つために廃棄されているという。

経済アナリストがこう続ける。

「ここ数年、廃棄の最終手段である焼却処分が、地球温暖化の観点から大きな批判を浴びています。2018年には英国の高級ブランド『バーバリー』が、年間42億円もの商品を焼却していたことが発覚し、世界中の環境団体から問題視されました。国際的に焼却処分への批判が高まってきたことで、大幅に値引きしても売り切る店、すなわちオフプライスの出現につながったのです」

国内で時季外れのブランド品の格安販売といえば、90年代から全国各地に林立したアウトレットモールが連想される。

しかし、従来のアウトレットではなく、なぜオフプライスに人気が移行していったのか。

「アウトレットは自社商品だけを扱い、近年ではEC(ネット販売)がその役割を担っている。だが、商品が限定的で最近はすっかり飽きられていた。オフプライスは他社商品も含め、一度に多種多様な商品を販売するだけに、消費者の関心が高いのです」(同)

例えば昨年3月、ドン・キホーテが愛知県にオープンしたオフプライス業態『オフプラ』では、「アルマーニ」「コーチ」「カルバン・クライン」「ラルフローレン」「セリーヌ」「ジバンシィ」など、約150ブランド、3万3000点を取り扱うという。

「バイヤーの腕次第で、店舗によってはさほど流行遅れになっていない商品を仕入れている。一点ものも多く、他者と差別化できる商品を手に入れたい消費者には、宝探しの感覚も楽しめます」(同)

問われるのは資金力とバイヤーの能力

かくして、オフプライスの人気は高まるばかりだが、前出のドン・キホーテの他にも、アパレル大手のワールドが仕掛ける『アンドブリッジ』やオンワード樫山の『オンワード・グリーン・ストア』などが、新規参入して商機を懸けている。

さらには、レンタルビデオやリユース業で実績のあるゲオホールディングスの系列会社も、オフプライス業態『ラックラック』を展開している。

ところで、これから先のオフプライス市場はどうなるのか。経営コンサルタントが分析する。

「発祥地のアメリカでは、今やアウトレットや普通のアパレル店舗より、オフプライスが伸びています。トップを走る最大手の『TJXカンパニーズ』は、19年の売上高が4兆円を超え、上位4社だけで8兆円市場を形成している。昨年はコロナ禍でやや売り上げを落としたものの、今年は勢いを盛り返しています」

こうした流れを受け、国内でもオフプライスがさらに浸透していくのは間違いない。

「個人消費がモバイルコストに食われて年々落ち、衣類の購買費も総務省統計でバブル期の半分前後と、既存のアパレル店は軒並み苦しい。では、オフプライスが全盛期を迎えるかといえば、そちらの生き残り競争も激化している。ポイントは品ぞろえの豊富さと、シーズンものをどれだけスピーディーにそろえられるかで、資金力やバイヤーの能力が問われます」

オフプライスは一過性のブームで終わるのか、アパレル業界の今後はまだ先が見えない。

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