社会

トヨタ堅調の陰でホンダ転落…上半期国内新車販売~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

7月6日、日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が、2021年上半期(1月~6月)の国内新車販売台数を発表した。

昨年は新型コロナの感染拡大により、メーカー各社とも販売台数が激減したが、現在、自動車市場に何が起きているのか、最新事情を探ってみた。

ディーラー関係者が、21年上半期の国内新車販売台数の全体状況を解説する。

「今年の上半期は前年同期比11.6%増の246万4586台と、2年ぶりのプラスとなり、わずかではあるが復調したようにも見えます。しかし、これは前年の販売が振るわなかった反動で、決して手放しで喜べる数字ではありません」

二桁の増加といえば耳に心地いいが、大きく落ち込んだ前年からは持ち直したものの、コロナ以前の19年上半期と比べれば、約1割も実績が下回っている。まだまだ本格回復には至っていないようだ。

このうち軽自動車以外の「登録車」は8.7%増の152万1878台で、やや改善したとはいえ、01年上半期以降で下から4番目という極めて低い水準だった。

「気になるのは今年6月単月の販売台数のうち、軽自動車が前年同月比1.2%減の13万934台と9カ月ぶりにマイナスとなったこと。この結果は半導体不足が原因というが、業界に不安が渦巻いています」(同)

また、21年上半期のメーカー間におけるシェア争いでは、トラック専業3社を除く乗用車メーカー全8社が、そろって反転増。1位のトヨタ自動車が約78.5万台(レクサスを除く)と前年同期比14.6%も販売を伸ばしたのをはじめ、スズキ、ダイハツ工業、三菱自動車の計4社が復調率を二桁台に乗せた。

トヨタ『ヤリス』の大躍進

そんな中、納期遅れなどが響いたホンダが約31.5万台と、同1%前後の回復にとどまり、スズキとダイハツに抜かれてシェアを昨年の2位から4位まで落とした。ホンダが4位以下になるのは、東日本大震災のあった11年(5位)以来、10年ぶりのことだ。

全国紙の経済担当記者が語る。

「上半期の新車販売台数で驚かされたのは、トヨタの『ヤリス』の躍進です。過去4年間トップだったホンダの『N-BOX』から、首位の座を奪いました」

トヨタのコンパクトカー「ヤリス」は前年同期比247.5%増の11万9112台が販売され、「N-BOX」を約8500台上回った。

「トヨタは『ヴィッツ』を一新して、昨年2月に『ヤリス』として発売しました。人気の理由はリーズナブルな価格に加え、新仕様が登場したことです」(同)

昨秋、「ヤリス」シリーズに、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)型の「ヤリスクロス」(ヤリクロ)が追加された。SUVはアウトドア・レジャーに使え、一方では街乗りにも重宝する。「ヤリス」の上半期販売台数の約半数が「ヤリクロ」だ。

モータージャーナリストが言う。

「コロナ禍で各家庭は経済的にも弱っている。普通車を買おうにも高額で手が出ない。その点で『ヤリス』のようなコンパクトカーは、軽自動車とあまり変わらない価格で手が届きます」

ちなみに、21年上半期の国内新車販売ランキングでも、2位にホンダの「N-BOX」、3位にスズキの「スペーシア」、5位にダイハツの「タント」、6位ダイハツの「ムーヴ」と、軒並み軽自動車が食い込んでいる。

キーワードは「アライアンス化」

かくして、今後の新車販売競争はどうなるか。

「コンパクトカーとSUVの人気が衰えないことから、好調の『ヤリクロ』のように価格を抑えたSUVの開発競争がエスカレートするとみています」(同)

また、今後は自動車業界そのものが、大きな変化を遂げると、自動車アナリストが指摘する。

「日本の自動車販売台数は、今や90年代の3分の2ほど。内閣府は昨秋、今後の人口減で新車販売台数が10年後に10%減少するとの予測を発表した。このまま放置すれば、日本の基幹産業である自動車業界は衰退の一途をたどります」

そのため、メーカー各社は10年後を見越した動きも加速させている。キーワードは「アライアンス化」で、他社との協力で新技術の開発に対応するという意味だ。

「自動運転AIなどの先進技術は莫大な研究費がかかり、1社単独ですべてをまかなうのは不可能な時代になりました。優れた技術を持つ他社と、いかに協力できるかがカギです」(同)

そうした流れを受けて、7月21日にトヨタ、スズキ、ダイハツの3社が会見し、電動化や車載通信など次世代の技術開発に連携して取り組む姿勢を打ち出した。

「今後、自動車業界は大変革期を迎える。欧州では、ハイブリッド車を2035年までに禁止する動きもある。それらを踏まえて戦略を練らねばなりません」(同)

国内自動車メーカー各社は、車が売れない時代に収益を確実に上げながら、一方では10年先の先端技術を模索し、二兎を追いながら生き残りを懸けて走り始めたようだ。

あわせて読みたい