社会

悲劇!東京五輪の裏で増加…コロナ禍の“孤独死”による事故物件

(画像) icsnaps / shutterstock

コロナ禍で社会の閉塞感が強まる中、不動産業者や物件オーナーを悩ませている問題がある。それは「事故物件」の増加懸念だ。

事故物件とは、原因にもよるが建物内で人が亡くなった物件を指す。法律上で事故物件の明確な定義はなく、それに該当するかどうかの判断は不動産業者によって異なる。近年では発見が遅れた「孤独死」も、「心理的瑕疵(心理的抵抗を感じてしまう事項)」に該当する事故物件として扱われることが多くなっている。

事故物件に関する国の統計はないが、コロナ禍の影響によって自殺者は増加傾向にある。厚生労働省の調査によると、昨年の自殺者数は2万1081人となり、対前年比で912人(約4.5%)増えている。

また、単身高齢世帯の増加を受けて、ここ数年は年間3万人以上の孤独死が発生しているとみられる。大阪府監察医事務所は、死後4日以上発見されなかったケースを孤独死として独自に集計しており、昨年は大阪市内(人口約275万人)で1314人が確認されている。前年から143人増え、集計を始めた2017年以降で最多となった。

総務省統計局のデータでは、2030年には3世帯に1世帯が単身世帯となることが予想されており、孤独死の件数も比例して増えていくことが考えられる。

「こちらの不動産は事故物件になるので、相場の半額以下になりますね」

Aさん(50歳/男性)は実家に単身で住んでいた父親が病死し、残った家を処分するために不動産の売却査定を依頼したが、不動産業者の言葉に呆然としたという。その理由は「死後7日たっていたので事故物件に該当する」と指摘されたからだ。Aさんは「病死や突然死による孤独死が、事故物件扱いになるとは思っていなかった」と話していた。

相場が8~9割下がることも…

事故物件の存在は、公示サイト『大島てる』によって広く知られるようになってきた。しかし、自身が当事者になることはめったになく、その実態を知る人は少ない。事故物件を専門に取り扱う業者いわく、「事故物件で最も多いのは孤独死」だという。

持病を持たず元気に暮らしていても、急激な温度差で血圧が変動する「ヒートショック」によって、冬場のトイレや浴室内で突然死することもある。こうした孤独死を警戒して、高齢者に賃貸物件を貸したがらない不動産オーナーも多く、深刻な社会問題になっている。

事故物件になると物件の価値が下がるため、不動産オーナーは賃料や売却価格の値下げを余儀なくされる。大手、中堅の不動産業者では事故物件を買い取らないことも多く、オーナーは買い取り業者を探すために腐心することになる。

事故物件を売却する場合は、相場の6~7割程度に価格が下がり、立地や死因、室内の状態によっても価格が変動する。近所に孤独死が知れ渡っている場合は、相場の8~9割下がり、その他のケースでも5割を割り込むことがあるという。

「しかし、事故物件は販売価格が安いので、一定数の需要がある。特に孤独死については、気にしないと割り切っている買い主が多いようです」(不動産業者)

実際に事故物件を購入した30代の夫婦は、「心霊現象は一切なく、相場よりも割安で広い物件が手に入ってよかった」と話す。

不動産オーナーにとって頭が痛いのは、不動産価格の問題だけではない。遺体の発見までに時間が経過した場合、原状回復には「特殊清掃」やリフォームなどの改修工事が必須になる。

臭いが原因で近隣住民が退去することも多く、賃貸物件では不動産オーナーが亡くなった入居者の連帯保証人に対して、部屋の修繕費(原状回復費用)などの損害賠償を請求し、訴訟に発展するケースもある。

不動産登記にヒントが隠されている!?

事故物件は売却時に「重要事項説明」として告知が義務付けられており、過去に自殺、殺人、火災があった物件は、不動産広告の備考欄に「心理的瑕疵」「告知事項」と記載されている。老衰や自然死などの孤独死も、物件の購入希望者に伝える義務がある。

もし、これらを隠ぺいして契約を結び、のちに事故物件であることが判明したときは、損害賠償請求訴訟を起こされる可能性もある。

ただし、賃貸物件では、事故があった直後に入居する人に対しての説明義務はあるが、賃貸で2~3年貸し出すと、以降に入居する人へは説明義務が不要になることが多い。

これを逆手に取った悪質な仲介業者が、知人の名義を使って複数名が入居していたかのように装ったり、定期借家契約で貸し出して事故物件の事実を隠したりするケースもある。家賃相場よりも安く、敷金、礼金、更新料なしという破格の条件の場合、まずは疑ってかかることも必要だろう。

また、持ち家や分譲マンションであれば、不動産登記にヒントが隠されていることもある。前の所有者が亡くなり、所有権が移ると相続の登記がされるが、その日付が○日ごろ、○月上旬と曖昧な場合や、中でも「不詳」の記載は要注意だ。死亡時期が不明確であることは、死後かなりの期間にわたり放置されていた証しだという。

事故物件は、もはや他人事ではない。単身高齢世帯の見守りサービスや「IoT技術(いろいろなモノとインターネットがつながること)」の活用で、早期に異変を察知できるような社会インフラの拡充が、今後の課題となってきている。

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