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菅首相の考える「選挙圧勝」シナリオ~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web 

政府は6月20日、10都道府県に出していた緊急事態宣言について、沖縄を除く9都道府県で解除した。全国的に感染が収束に向かいつつあるので、解除は妥当かもしれない。だが、東京都を解除することについては、新型コロナウイルス対策分科会でも異論が出たという。当然だ。東京都だけは、緊急事態宣言を解除できる状態ではまったくないからだ。

理由の第1は、東京都の新規陽性者数が、すでに横ばいから微増に転じていることだ。第2は、十分に新規陽性者数が下がり切っていないことだ。東京都の過去1週間平均の新規陽性者数を見ると、「第3波」後のボトムとなった3月8日は253人だった。十分に下がり切らないなかで、3月21日に2回目の緊急事態宣言を解除したことが、結果的に「第4波」を招く原因になった。ところが、6月17日の新規陽性者数は386人と、第3波後のボトムよりもはるかに多いのだ。

第3は、全国の新規陽性者数に占める東京都の比率が急増していることだ。5月16日には10%だったが、6月17日には29%に急増している。全国で感染の収束傾向が明確になる一方、東京都だけが減っていない。新型コロナは「東京問題」になっているのだ。

こうしたことを踏まえれば、東京都を封鎖して、東京のウイルスが他地域に拡散しないようにするしかない。しかし、7月23日から東京オリンピックが開催されるため、そうなる可能性はゼロだ。国民や専門家がどれだけ反対しても、政府はオリンピック開催に向けて猪突猛進。私は、これで感染「第5波」の到来は確実だと考えている。

再び10万円の特別定額給付!?

衆議院選挙が間近に控えるなか、再び感染爆発を起こせば政権が持たないと思われるかもしれない。しかし、菅義偉総理は、こんなシナリオを描いているのではないだろうか。

まず、オリンピックが始まってしまえば、国民は日本選手の応援で一つになる。特に今回は、大部分の海外選手が大会直前に来日して選手村に隔離されるから、十分な調整ができない。そのため、日本選手のメダルラッシュが起きるだろう。その熱狂で国民の関心はコロナから離れる。閉幕後も、ワクチンの効果で大きな感染第5波が来なければ、そのまま総選挙で与党が勝利できる。

万が一、巨大な第5波を招いてしまった場合は、9月5日のパラリンピック閉幕直後に臨時国会を召集する。そして、与党提案の形で1人あたり10万円の特別定額給付金の給付を決め、そのことへの民意を問うために解散総選挙に打って出るのだ。可能性は低いとは思うが、そこに消費税を時限的に5%に引き下げる減税を重ねてもよい。そうすれば、国民は、政府が国民の命や安全よりもオリンピックを優先させたことなどすっかり忘れて、総選挙は与党の圧勝に終わるだろう。

衆議院選挙の投票日は、10月10日になる可能性が高い。その後は気温も下がってくるから、コロナ感染は年末に向けて爆発的な拡大になっていくだろう。しかし、すでに選挙では与党が圧勝しており、国民が政策の失敗に気付いても、あとの祭りである。菅総理は衆院選と自民党総裁選を乗り切れば、少なくとも3年間は総理の椅子を確保できるのだ。

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