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北朝鮮33年ぶり五輪不参加…それどころではない“ただならぬ”国内事情

(画像)Katherine Welles / shutterstock

北朝鮮の金正恩総書記の激ヤセを巡り、さまざまな臆測が流れている。正恩氏の実父である金正日総書記は、自身の健康状態をトップシークレットにしていたが、正恩氏も南北、米朝会談に臨んだ際には、投宿先でDNA情報を採取されないように徹底した身辺管理を行っていた。

1本たりとも毛髪を残さず、すべての指紋を消去し、トイレを持参して排せつ物まで持ち帰ったというから驚きだ。

ところが、6月8日の北朝鮮専門サイト『NKニュース』は、高級時計をはめた正恩氏の手首の写真を公開し、同じ時計をしていた昨年11月と今年3月の写真を比較して、〈3月の写真では以前より内側の穴を使っており、手首が細くなっていることが分かった〉と報じた。

「今回のNKニュースの報道は、激ヤセの理由を〈健康上の問題か、意図的な減量なのかは分からない〉としていますが、これは持病といわれる糖尿病の悪化という説が濃厚です」(北朝鮮ウオッチャー)

折も折、今年1月に開催された「朝鮮労働党第8回党大会」で党規約を改正し、独裁国家としては異例のナンバー2といえる「第1書記」のポストを復活させた裏には、自身に不測の事態が起きたときの危機管理という意味合いがあるのだろう。

「正恩氏の負担を減らす目的もあるのでしょうが、北朝鮮の指導層には『正恩氏だけに任せておけない』との危機感があると私はみています。余談ですが、正恩氏と李雪主夫人はスイス製の高級ペアウオッチを愛用している。そのくせ国民に対しては『輸入品に頼るのは贅沢だ』と説教するのですから、ダブルスタンダードもいいところです」(同)

コロナ感染拡大を理由にしているが…

実際、北朝鮮の国営メディアは2020年ごろから、正恩氏が党の会議などに出席したとき「会議を司会した」という表現を使い始めている。従来からの表現は「指導」なので、それに比べると「司会」はあまりにも軽い。

「同年8月25日に開かれた党政治局拡大会議では、正恩氏が『会議を運営した』という表現も登場しました。ひょっとすると正恩氏は、健康不安などから国家運営に対する熱意や自信を失ってしまい、指導という言葉より責任の度合いが弱い司会、運営という表現を用いて、これまでの失政の責任逃れをしているのかもしれません」(同)

また、NKニュースの激ヤセ報道があったのと同じ6月8日、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京五輪不参加を表明した北朝鮮の出場枠を他の国・地域に再配分すると発表した。これで北朝鮮の五輪不参加が確定したことになる。

「北朝鮮がスポーツ外交の舞台となる夏季五輪を欠場するのは、1988年のソウル五輪以来33年ぶりのことです。ソウル五輪欠場については、87年11月29日、金正日総書記が『(ソウル)五輪の韓国単独開催を妨害するため、大韓航空機を爆破せよ』との〝親筆指令〟を発し、金賢姫元工作員らがテロ行為に及んだことが今日では判明しています。ですから、今回の五輪不参加は当時とは状況が違い、新型コロナウイルス感染拡大を理由にしているものの、国内に五輪どころではない、ただならぬ事態が起きているのでしょう」(国際ジャーナリスト)

今年1月の党大会で党規約を改正した際、第1書記のポスト設置以外にも興味深い出来事があった。旧規約に明記されていた〈日本軍国主義と侵略策動を粉砕して〉という文言が消えたのだ。

批判の矛先を変えるために…

「韓国政府内の専門家の中には、その意図を『日朝関係に肯定的なシグナルとなる可能性がある』と予測し、日本に対する『認識の変化も反映されている』と分析する向きもある」(同)

ところが、実際は日本に対してこれまで以上に罵詈雑言のオンパレードで、今年の1月以降、対日認識の変化は微塵も感じられない。北朝鮮の対日バッシング報道は、植民地時代の被害者への謝罪・賠償問題や陸上自衛隊の軍事演習計画への非難など枚挙にいとまがなく、米国に対する批判が自制されているのとはまったく対照的だ。

「菅義偉首相は就任以来、再三にわたり『金正恩総書記と無条件に会う用意がある』と呼びかけています。また、加藤勝信官房長官も5月5日、新潟市内で行われた横田めぐみさんの父・滋さんの一周忌の追悼会にリモート出席し、『拉致問題は菅内閣においても最重要課題である。すべての被害者の1日も早い帰国実現へ全力で行動していく』と述べました。しかし、残念ながらエスカレートする北朝鮮の対日批判を見る限り、拉致問題の進展は期待できそうにありません」(外交シンクタンク研究員)

北朝鮮がやみくもに対日批判を繰り広げるのは、国内に正恩氏と妹の金与正党宣伝扇動部副部長への批判がくすぶっており、その矛先を変えるためでもある。

「正恩氏を取り巻く環境は、多くの同志に支えられていた父の金正日総書記や祖父の金日成主席とあまりに違う。正恩氏の味方は与正氏くらいで、実兄の金正哲氏とは話すことさえない。政策立案能力や実行力に欠ける正恩氏には、独裁者の血筋という空虚な存在感しかないのです」(前出・国際ジャーナリスト)

これまで五輪は、北朝鮮にとって国威発揚にもってこいのイベントだったが、参加さえかなわぬ今、対日関係を悪化させる以外に国民を鼓舞する手段が見つからないようだ。

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