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キリンにサントリーが待った!「糖質ゼロビール戦争」勃発~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

キリンは2020年10月6日に、日本初となる糖質ゼロビール『キリン一番搾り 糖質ゼロ』を発売した。

現在、この新商品は同社が過去10年間に発売したビールの中でも、最速で売り上げ累計1億本(350ミリリットル換算)を突破するなど(21年3月上旬時点)、爆発的な人気を呼んでいる。

そもそも糖質ゼロビールは、これまでの常識を覆す画期的な商品だ。飲食業界の関係者が解説する。

「ビールは飲みたいが、それでも糖分が多いからと、世のお父さんたちに『とりあえず1杯目はビール、2杯目からは焼酎など』という傾向が強まっていた。つまり、糖尿病や痛風の予備軍が増加する中、最近は糖分やプリン体の多いビールが、家飲みでは敬遠されていた。各ビール会社にすれば、発泡酒や第3のビールで糖質ゼロ商品が数多くある中、ビールのジャンルで糖質ゼロ商品を実現できるかが大きな課題でした」

しかし、商品開発は難航を極めたという。その理由をビールメーカー関係者が解説する。

「ビールは法的に麦芽の使用料が50%以上と決められている。麦芽を多く使用することで麦のうま味を引き出すわけですが、同時に糖質量も上がってしまう。そのため、糖質ゼロビールの商品化は難しいと言われてきた。しかし、キリンは5年の歳月をかけ、糖質を減らすのに適した麦芽の使用や発酵技術の開発で、国産初の糖質ゼロビールという画期的商品を開発し、昨年秋の発売にこぎ着けたのです」

キリンビール11年ぶりに売り上げ首位

その結果、糖質ゼロビール『キリン一番搾り 糖質ゼロ』を飲んだ消費者からは「ライトな飲み口でスッキリ」「糖質ゼロで心置きなく飲める」という絶賛の声が相次いだ。一方で、「コクは落ちる」「アルコール度数が4%と低く物足りない」といった不満の声もあるものの、コロナ禍で健康志向が強まっていることもあり、おおむね歓迎色が強いという。

『キリン一番搾り 糖質ゼロ』の製法を簡単に解説すると、独自の「一番搾り製法」に、新技術の「新・糖質カット製法」を組み合わせているのが特徴。麦汁の雑味をなくし、澄んだ麦芽のうま味を閉じ込めつつ、新開発した発酵技術で糖質をカットしている。

とにもかくにも『キリン一番搾り 糖質ゼロ』の大ヒットが追い風となり、2020年はビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の売り上げで、キリンがアサヒビールを11年ぶりに抜き、首位に返り咲いている。

糖質ゼロビールの人気でさらに他社を引き離したいキリンだが、その独走に待ったをかけたのがサントリーだ。

4月13日、サントリーは同じく糖質ゼロビール『パーフェクトサントリービール』を発売した。同社によると「ビールど真ん中のおいしさと糖質ゼロを両立したことで、パーフェクトを冠している」とのこと。食品アナリストが解説する。

「実はサントリーも、商品販売に5年を要しています。両社の商品には違いがいくつかあり、キリンが国内初となる糖質ゼロビール発売にこだわったのに対して、サントリーは糖質ゼロビールという機能性に加え、ビール本来の『コクと飲みごたえ』にこだわった」

酒税法改正を巡り新商品開発が激化

『パーフェクトサントリービール』は『ザ・プレミアム・モルツ』ブランドで培ってきた、醸造技術やノウハウを活用。麦芽のうまみと飲み応えを最大限に引き出しながら、糖質の元となるでんぷんを手間暇かけて分解し、糖質ゼロと力強い飲み応えに加え、アルコール度数5.5%を実現している。

両社はCM戦略でも負けてはいない。キリンは人気俳優の唐沢寿明、木村佳乃を起用して好評を博したが、サントリーは松嶋菜々子、吉田鋼太郎、お笑い『霜降り明星』の粗品という人気者3人を起用して攻勢をかけている。

この「糖質ゼロビール戦争」を踏まえ、今後のビールメーカー各社は、どう動いていくのか。経営コンサルタントが分析する。

「コロナ禍で外食が減り、ビール市場の3割を占めてきた業務用ビールが縮小する中、各メーカーとも当面は家庭用ビールに力を入れる方針です。家飲みのトレンドは健康志向なので、糖質やプリン体などを抑えた商品が今後の主流になってくるとみられます」

そして、もう1つの要因を指摘する。

「2026年までに酒税法が改正され、ビール、発泡酒、第3のビールの税額が同じになります。その結果、相対的にビールが安くなり、今後はビールの新商品開発が激化する可能性が高い。キリンやサントリー以外のメーカーが、糖質ゼロ商品を打ち出してくるかもしれません」(同)

現状の糖質ゼロ分野はキリンVSサントリーの一騎打ちだが、他メーカーも「宝の山」を、指をくわえて見ているはずがない。今後、他社も続々と健康志向のビール商品を開発し、さらに激しい競争が繰り広げられることだろう。

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