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コロナ禍で爆増!「パックご飯」1000億円市場へ~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

電子レンジで温めて食べる「パックご飯」市場が急拡大している。国内生産量は、2010年には11万8148トンだったが、20年は新型コロナの影響で消費量が増え、22万4430トンと過去最多を記録した。茶わん1杯150グラムで換算すると約15億杯分になる。

そもそもパックご飯とは、外から空気が入り込まない気密性の高い容器にご飯を入れ、常温で保存できるようにした米飯商品。電子レンジや湯煎などで数分温めれば即、食べられる。

パックご飯の大半を占めるのが、米を殺菌してから炊飯する「無菌包装米飯」だ。1988年に発売されたサトウ食品(新潟市/旧社名は佐藤食品工業)の『サトウのごはん』が先駆けで、それまでのレトルト米飯の難点である水っぽさを解消して次第に浸透していった。

最新の市場動向について、農林水産省の関係者が解説する。

「農水省の統計によれば、米全体の消費は人口減や食事の洋風化などで低迷が続き、年間需要量(19年7月~20年6月)は714万トンと、10年前に比べて約100万トン(13%)減少した。冷凍チャーハン、冷凍おにぎりなど他の加工米飯も需要が鈍化しているが、『パックご飯は国内外で伸びが見込める』(同省穀物課)と期待が集まっている」

パックご飯は一般的に半年以上たっても食べられる保存食で、現在では日常的に買う人が珍しくなくなった。やはり炊飯の手間が省けることから、単身者や共働き世帯、高齢者に支持されているという。こうした中、昨年は飛躍的に市場が伸張した。

米飯メーカーの関係者が解説する。

緊急事態宣言発令直後に爆増!

「新型コロナ禍で家庭での消費機会がさらに増え、巣ごもり需要が拡大したことが背景にあります。というのも、パックご飯はコロナ騒動に火がついた昨年3月と緊急事態宣言が発令された直後の5月、6月に、前年同期比20%を超える驚異的な伸びを見せているからです」

3密回避で外食が厳しいことに加え、万が一の非常食として保存性の高いパックご飯に注目が集まり、ネット通販などでまとめ買いする傾向も高まったとみられる。

「パックご飯で最大手のサトウ食品は、まさにコロナ特需に沸いた。昨年5月から今年1月までの売り上げは前年同期比10.9%も伸び、3月公表の連結決算で、経常利益が前年同期比97.4%増の24億7200円に拡大している」(同)

実は数年前から売り上げを伸ばしていたサトウ食品は、新潟県聖籠町に50億円を投じて新工場を建設(19年から稼働)しており、従来の日産83万食から103万食に生産能力が増加していた。これがコロナ禍と重なり、同社の売り上げを一気に押し上げたようだ。

また、他メーカーの関係者は、パックご飯の売り上げが伸びた別の要素を教えてくれた。

「各メーカーとも『コシヒカリ』や『あきたこまち』などのブランド米を使用しているが、それに加えて製造技術の進化も見逃せない。また、パックご飯を引き立てる脇役も、最近は驚くほど充実しています」

例えば、スーパーではさまざまな味の「パックご飯用 混ぜご飯の素」が販売されている。こちらの商品は「1人分を簡単に短時間で作れる」と好評を博しているが、実際、手軽に作れる上に味も本格的な混ぜご飯と遜色ないので、人気商品になるのも納得だ。

“天下のJA”までがパックご飯に前のめり

「マルちゃん」ブランドでパックご飯を販売する東洋水産も、18年と19年に製造ラインを増設し、生産能力が従来の1.5倍となった。白米だけでなく、混ぜご飯など約50種類の商品を展開している。

拡大する市場に商機を見て、JA(全国農業協同組合連合会)も動き出した。前出の農水省関係者が言う。

「JAは4月から、すでにパックご飯を手がけていた宮城県加美町の『JA加美よつばラドファ』を子会社化し、パックご飯事業に本格参入した。22年度までに生産能力を現在の4倍にすることが目標という。米そのものの需要が低迷する中、JAが生き残りのためにパックご飯を扱うという新しい試みです」

秋田県大潟村でも、国などの支援で総事業費20億円を投じた『ジャパン・パックライス秋田』が動き出す。海外を含め年間3600万食を販売する予定だ。

天下のJAまでがパックご飯に前のめりになるのは、一過性の売れ行きだけを見ているからではない。経営コンサルタントが指摘する。

「海外でパックご飯の人気が高くなり、輸出が伸びているのです」

財務省の貿易統計によると、20年の輸出量は1203トン(約6億5000万円)で、前年より18%も増えている。

「20年の主な輸出先は、アメリカ、香港、台湾、ベトナム、中国の順です。各社が新規参入するのは、近い将来、さらに輸出が伸びるとみての動きです」(同)

ある調査によればパックご飯は近い将来、1000億円市場も見込めるという。それだけにメーカー間の競争も、今後ますます激化していく気配だ。

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