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犬猫13万匹「殺処分」の危機…ペット産業を脅かす数値規制問題

「秋田犬ゴンとトラ」発売記念イベントより
「秋田犬ゴンとトラ」発売記念イベントより (C)週刊実話Web

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要で、ペットを家族に迎え入れる人が急増している。リモートワークの浸透による在宅時間の増加に加えて、1人につき10万円が支給された「特別定額給付金」が追い風となり、ペット市場が拡大。コロナ禍を背景に犬や猫などのペットが品薄になり、販売価格も高騰している。

「昨年4月に発出された緊急事態宣言以降、小型犬や猫を購入されるお客さまが急増し、同時にペット関連サービスの需要も拡大しています」(大手ペットショップ幹部)

犬はトイプードルやチワワ、猫はスコティッシュ・フォールドやアメリカン・ショートヘア、そして、純血種同士を組み合わせたミックス犬などが人気だという。

今から15年ほど前の日本では、マルチーズやポメラニアンなどの小型犬が15万円から25万円で販売されていた。ところが、近時の平均販売価格は犬が40万円以上、猫が30万円以上と大きく上昇している。

その背景には2005年の法改正がある。販売用の動物を育てるブリーダーが登録制になったことで、それまで趣味で繁殖を手がけていた「ホビー・ブリーダー」が廃業に追い込まれ、飼育頭数が減少したのだ。この法改正によって需要と供給のバランスが崩れ、販売価格が上昇する契機になったと言われている。

現在もペット需要の高まりとともに、販売価格は高止まりを続けているが、ペット業界にはさらに大きな問題が差し迫っている。

昨年7月に小泉進次郎環境相が、犬猫の繁殖業者やペットショップに対して、従業員1人あたりの飼育数の上限を、繁殖用の犬は15頭、猫は25頭、販売用の犬は20頭、猫は30頭とする「数値規制」を提示し、今年6月から施行される予定だったのだ。

悪徳業者の排除が目的だが…

また、平飼い用ケージの広さや交配年齢、出産回数まで定められ、生後56日以下の子犬や子猫の販売を禁じる「8週齢規制」も、同時にスタートする予定だった。日本の動物愛護法の改正で、ここまで厳格な数値規制が設けられたのは初めてで、業界関係者の間には波紋が広がっていた。

世界的に見ても飼育頭数に関する基準を求めている国は少ない。アメリカでは1人につき50~75頭、片やドイツは10頭と、国によってかなり開きがある。ドイツは大型犬が多く、ホビー目的の小規模ブリーダーが大多数を占めているが、その基準を法規制や産業構造が異なる日本にそのまま導入すれば、ゆがみが生じることは容易に想像できる。

そもそも数値規制は、劣悪な環境で無理な繁殖を繰り返す悪徳業者の排除が目的だが、法改正によってブリーダーの手を離れる恐れがある犬や猫は、13万頭以上にのぼると言われている。その結果、大量の犬や猫が行き場を失い、殺処分が増加する懸念もある。

環境省によると、19年度における犬猫の殺処分数は3万2743頭で、04年度の39万4799頭と比較すると大幅に減少している。その理由はオンライン譲渡会などで里親が見つかるケースが増えたためで、こうした流れの中での数値規制は「再び犬猫の殺処分が増加しかねない」と、ブリーダーやペット関連業者は強く反対している。

そうした気運が高まる中、環境省は昨年12月、頭数制限の上限は案の通り定めるとしたものの、今年6月の施行を断念。来年6月から繁殖用の犬は25匹、猫は35匹、販売用の犬は30匹、猫は40匹とゆるめの上限を定め、その後は年5匹ずつ減らすとした。省令通り完全施行されるのは24年6月で、予定より3年先送りされる。

小規模ブリーダーの約3割が廃業危機!?

現在、国内のブリーダーは7000~8000人とされ、その半数以上が1人につき犬は30頭、猫は40頭ほど飼養しているという。

「夫婦でトイプードルとチワワを計45頭ほど育てていますが、中には引き取り手がない引退犬もいます。このまま3年後に法改正が施行されれば、15頭を手放さなければならなくなる」(40代の男性ブリーダー)

業界関係者は「数値規制によって、設備投資や人員増加に対応できない小規模ブリーダーの約3割が、廃業の危機に瀕することになる」と警鐘を鳴らす。

犬の登録頭数は、11年度の685万2235頭をピークに下降線をたどり、18年度は622万6615頭に減少している。しかし、トリミングやアパレルを含めた国内ペット関連の市場規模(矢野経済研究所調べ)は小売金額ベースで、18年度に1兆5442億円を突破し、21年度は1兆6257億円が見込まれている。

また、近年はワクチンや駆虫薬の普及に加え、獣医療の進歩でペットの平均寿命が延びている。

「15年くらい前は平均寿命が7~8歳だったが、室内飼育でフィラリアにもかかりにくくなった。犬や猫への医療技術も年々向上しています」(獣医師)

一方でペットの高齢化に伴い、がんやアルツハイマー型認知症などの介護問題も増えており、ペットを家族に迎えるのであれば、最後まで愛情をもって世話をする責任が求められる。

コロナ禍でペット需要が高まるも、先延ばしとなった犬猫の数値規制が3年後に控えている。動物愛護の観点からも、悪徳な繁殖業者やペットショップは淘汰されてしかるべきだが、犬猫の数値規制問題は優良なブリーダーやペット産業に与える影響も大きく、今後の動向が注目される。

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