1989年、阪急から球団を譲り受けたオリックスは、イチローの活躍もあって95~96年に連覇したものの、2000年以降は2位になったのが2回だけ。それ以外はBクラスと低迷。とりわけ、ここ2年はシーズン途中に続けて監督が交代というドロ沼状態にあった。
「チームに欠けていたのが、一体感。その反省から、『統率力のある球界のカリスマが宮内オーナーの意志を継ぐ』という情報が伝わり、バラバラだったフロント、監督コーチ、選手が一枚岩となった。高いポテンシャルを持ちながら、結果が出せなかったチームが一変した要因はここにある」(スポーツ紙デスク)
〝球界のカリスマ〟とは、球団OBで、日米通算4367安打を放ち、現在はシアトル・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏だ。2019年に現役引退して以来、オリックスは監督オファーを出し続けてきたが、イチロー氏は「僕には人望がない。選手がついてこない、監督は絶対無理」と固辞。しかし、球団トップでの招聘には前向きという。
「監督は所詮、雇われの身。いくら頑張ってもクビになる。しかし、自分が会社のトップならクビにできない。これがイチロー氏の考え方。〝理想の上司ランキング〟で常に上位にランクされるなど経営者としての期待値は高く、こちらの面では人望が厚い。ユニホーム姿の監督にはノーでも、背広姿の球団トップというオファーは別という判断です」(大手広告代理店社員)
関係者の話を総合すると、オリックスは球団の社外取締役として招き、球団社長・オーナー代行を託す。高齢の宮内氏に代わってオーナー会議にも出席するそうだ。そのため、球団株の一部を買い取ってもらい、共同オーナーの可能性も排除しない方針という。
「イチロー氏がメジャーで手にした純資産は1億8000万ドル(約200億円)といわれています。個人的につながる国内の支援者らと連携すれば、球団を丸ごと買う資金力も十分あるでしょう。しかし、日本のプロ野球は個人や投資家グループでの球団経営は認めておらず、たとえ球団買収に成功しても承認されません。その点、オリックスと友好的な共同経営なら、お互いの利害が合致します」(同)
自前選手育成の方向転換で体質改善が結実
イチロー氏の夢は、マイアミ・マーリンズを買収したデレク・ジーター氏(元ヤンキース)やドジャースを買い取ったマジック・ジョンソン氏(NBA元スーパースター)のような球団オーナーだ。まさに願ったり叶ったりの話といえる。
「オリックスの喫緊の課題が、宮内オーナーの後継者問題。これまで球団の戦略、編成も含めて宮内氏がワンマン経営でリードしてきたが、後継者がいない。当初の目的だった社名浸透を達成したことで、親会社には今年の優勝を花道にプロ野球経営を手仕舞いすべきと進言する幹部もいて、宮内氏のオーナー勇退後の球団の形づくりも急を要する課題だった」(前出・デスク)
そこで舵を切ったのが、イチロー氏のオーナー代行兼球団社長での招聘なのだ。
今季のオリックスは、リーグ防御率1位の山本由伸、同2位の宮城大弥らの強力な先発投手陣がチームを牽引。K-鈴木や漆原大晟、阪神から移籍した能見篤史らにつなぎ、古巣に復帰した元メジャーリーガーの平野佳寿が締めるという勝利の方程式が完成した。
一方の打線は、打率リーグトップの吉田正尚、同2位の〝ラオウ〟こと杉本裕太郎が引っ張り、走攻守3拍子揃った宗佑磨がアシスト。コロナ禍でメジャー通算282発の大砲、A・ジョーンズ、NPB通算96発のS・ロメロらが出遅れているが、彼らが調子を上げる夏場にはさらに戦力を増す。
以前のオリックスは、資金力をバックに闇雲にFA選手を補強したり、大物外国人選手を獲得した結果、若手の成長を妨げ低迷してきた。その反省から、ドラフトと自前選手の育成に方向転換し、ここ2年のドラフトでは計11人中7人の高校生を指名。今季は一昨年のドラフト1位である宮城がリーグトップの8勝を挙げ、同2位の紅林弘太郎も遊撃のレギュラーに定着。体質改善が結実している。
世界で賞賛されたイチロー氏も、実はドラフト4位から一流に駆け上がった努力の人だ。福良淳一GM(84年、阪急6位)、中嶋聡監督(86年、同3位)もしかり。〝雑草トロイカ体制〟でイチロー氏が提唱する「ローコストで最大の戦力を整える」戦略で、オリックス黄金時代の再到来を目指す――。イチロー氏のビジネス手腕に注目が集まる。
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