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『アシュラ』 残忍テーマ過ぎて有害図書指定…哀しき“封印漫画”の世界

『アシュラ』1970-1971 ジョージ秋山/講談社

平安時代末期、未曾有の飢饉の中をただひとりで生きる少年アシュラの、生きるための孤独な戦いを描く。第1話からいきなり飢餓による地獄絵図が描かれ、食人、親殺し、子殺しといった反道徳的、反社会的なシーンに世間は激しく反発した。

神奈川県では「残忍、不道徳のうえに犯罪性がある。非常識であると同時に、青少年に悪影響を与える」として、掲載誌を有害図書に指定し、未成年への発売を禁止。北海道ほか各自治体も追随して社会問題に発展。騒動を受けて『週刊少年マガジン』は企画意図を掲載することに…。

“崇高な構想”実現されず…

それによれば『アシュラ』は「人間が人間として生きられるギリギリの環境下に誕生し、成長していく過程を通して、宗教的世界に目覚め、人生のよりどころを確立させていくこと」がテーマであり、「冒頭の地獄絵図的世界は当然、成長の中で否定され、神や仏なるものへのひたむきな希求を通して、豊かな人間社会を建設していく」という構想だと釈明した。

だが、最終的にこの構想は全く実現されなかった。(そのまま物語が進んだところで、それが面白い作品になるとはとても思えない?)

結局のところ、極限に置かれた人間の尊厳はどうあるべきかというテーマに答えは出ていない。だが、こうした難しいテーマに挑む漫画家がいるということが漫画の奥深さなのだ。

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