メモの通りに次々と仲間が命を落としていく中、これまたメモの通りに生き残ったAは、アメリカ軍の捕虜となった。
持ち物検査の際、当然メモ帳も先方へと差し出したが、米兵がメモ帳を開いてみると、中には何も書かれておらず、ただ、又兵衛のものと思われる血液でべっとりと汚れていたという。
不思議な光景を目の当たりにしたAと後輩は思った。「これは人の血をすするメモ帳だったのではないか」と──。
血をすするメモ帳の不思議な話は、これで終わりではない。
捕虜として数年を過ごし、日本へ無事帰国できたAは、返還されたメモ帳と遺品を持って又兵衛の家を訪れた。すると、驚くべきことに、又兵衛は生きてそこにいたのである。
“人の血をすするメモ帳”の持ち主
事情を説明すると、本物の又兵衛は「遺品を持ち帰ってくれ」と嫌そうな顔をした。遠いところを善意でやって来たAは、その態度が気に食わず、遺品を叩きつけて又兵衛の家を後にした。
その数日後、訪ねてきた警察によって、Aは又兵衛の死を知る。自宅が突如として爆発し、家族も残らず死んだということであったが、焼け残った家財の中に例のメモ帳があったというのだ。
警察が持参したそのメモ帳には、「Aの力を借りて、河野又兵衛の家に着き、復讐を果たした」という記述のあとに、「これで良し」という一文が添えられていたという。
アリバイが証明され、Aの嫌疑はすぐに晴れたが、又兵衛の家があった土地は、その後も呪われてしまったようで、住人が相次いで死亡し、まもなく荒れ地となってしまったらしい。
死してなお又兵衛を強く恨み、フィリピンのジャングルで「血をすするメモ帳」を抱いて息絶えていた遺体の主は一体誰だったのか。それは今も謎のままである。
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