57年ぶりに東京でオリンピックが開催されたにもかかわらず、コロナ禍のせいでどこか元気のない日本社会。いま何よりも求められているのは、アニマル浜口の「気合だ~!」の雄叫びと「ワッハッハ~」の笑い声ではないか。
最近はテレビで見かける機会が減ったアニマル浜口だが、これはやはり「気合だ~!」と叫んで飛沫をまき散らす姿が、コロナ禍の現状にふさわしくないということか。
しかし、本人は主宰する『アニマル浜口レスリング道場』でプロレスラー志望の若者たちと共に、連日、汗を流しながら「私は1億年、生きるんですよ~、ワッハッハ~!」と至って元気な様子である。
残念ながら無観客開催となってしまった東京五輪だが、観客席からの「気合だ~!」の雄叫びを聞きたかったという人もいるだろう。日の丸をあしらった金色のシルクハットと羽織袴の姿で、「オリンピックおじさん」と呼ばれた山本直稔さんが2019年3月に逝去された今、浜口は新たな五輪の「名物おじさん」としてふさわしいようにも思う。
浜口と五輪といえば、もちろん娘・京子の応援団長としての関わりになるのだが、実は浜口個人も五輪との深い縁がある。
リングネームの「アニマル」について、浜口自身は「国際プロレスに入門してから間もなく吉原功社長に名付けられたが、その由来は知らない」と語っている。だが、実はこのアニマルを命名したのは、1964年の東京五輪、レスリング(フリースタイル・フェザー級)で金メダルに輝いた渡辺長武氏であった。
最強オリンピアンの名を継承
その五輪前、レスリング全米オープン選手権に特別参加した際には、6戦すべてでフォール勝ちを果たし、しかも、試合時間はトータルで10分かからなかったといわれる。そんな渡辺氏を当時のアメリカメディアは、「ワイルド・アニマル」の異名を付けて称賛した。
渡辺氏は自身に付けられたニックネームを、日本レスリング協会の八田一朗会長と早稲田大学レスリング部OBでもある吉原社長の2人に頼まれ、浜口に譲ったのだと後年のインタビューで語っている。つまり、浜口は本人の預かり知らぬところで、最強オリンピアンの名を受け継いでいたわけだ。
国際プロ入門前に一切の格闘技経験がなく、体格的にも決して恵まれない浜口が、なぜそんなレジェンドのニックネームを与えられたのかといえば、おそらくは真面目な練習態度を認められてのことだったろう。
「道場をのぞくといつも必ず浜口がいる」といわれるほどの熱心さで、当時、来日参戦していたビル・ロビンソンやカール・ゴッチなど希代の名レスラーにも、積極的に教えを乞うていたという。
その甲斐あって程なく国際プロの主力レスラーとなった浜口は、シングル王座には縁がなかったものの、グレート草津やマイティ井上と組んでIWA世界タッグ王座に君臨するなど、団体に欠かせない存在となっていった。
77年11月には井上とのコンビにより、全日本プロレスとの交流戦でアジアタッグ王座を獲得(相手はグレート小鹿&大熊元司の極道コンビ)。タイトルが管理団体から国内の他団体へ移動するのは、日本プロレス界において初めてのことであり、さらに井上&浜口組は四度の防衛まで果たしている。このことから、ジャイアント馬場もかなりの高評価を与えていたことがうかがえる。
「俺の持っているものを全部盗んでいった」
また、アントニオ猪木も浜口を高く評価していた1人で、浜口が国際軍団として新日本プロレスに参戦していたときには、その気迫を前面に出す試合ぶりについて「あいつは新日の選手でもないのに、俺の持っているものを全部盗んでいった」と話したという。
83年2月、二度目となる猪木VS国際軍団の1対3マッチでは、最後に浜口が猪木からフェンスアウトの反則勝ちを奪っている。たとえ変則マッチであっても、当時の猪木が気に入らない選手に勝ち星を譲るなどはあり得ないことで、これこそ猪木が浜口を認めていた最大の証拠と言えよう。
この頃の浜口は誰よりも早く会場入りし、大声を上げながらダッシュや縄跳びを繰り返すことでテンションを高めていた。これが後の「気合だ~!」や「燃えろ~!」につながったと、浜口は述懐している。引退後もテレビ出演などの際には、控室で大声を出しながら30分近くスクワットなどの運動を繰り返し、万全の状態で収録に臨むよう心掛けているという。
90年9月、浜口は猪木のデビュー30周年記念試合にも出場しており(猪木&タイガー・ジェット・シンvs浜口&ビッグバン・ベイダー)、現在、病床にある猪木が復活した際には、ぜひとも「元気ですか~!」と「気合だ~!」の共演を見せてもらいたいものである。
《文・脇本深八》
アニマル浜口
PROFILE●1947年8月31日生まれ。島根県浜田市出身。身長178センチ、体重103キロ。 得意技/ジャンピング・ネックブリーカー・ドロップ、エアプレーン・スピン。
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