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北朝鮮・金正恩総書記“操り人形”説! 熾烈な権力闘争ウラで…

北朝鮮
 (画像) MotionEmo / shutterstock

今年1月に開かれた朝鮮労働党の第8回党大会で、最も衝撃的だった出来事は、党規約から金日成主席、金正日総書記への個人崇拝が消え、北朝鮮を支配するのは「朝鮮労働党」であり「金日成主義」「金正日主義」であると改正されたことだ。

「これは金一族の正統な血統だけが北朝鮮という国家を個人支配できるという規定を消し去り、労働党による組織支配に変更したことを意味します。現在『金日成主義』『金正日主義』の体現者は、直系子孫である金正恩総書記と妹の金与正党副部長だけですが、党が金正哲(正恩氏の実兄)を担げば、いつでも首をすげ替えられるということです」(国際ジャーナリスト)

6月末の党政治局拡大会議で「党の決定と国家的最重要課題の遂行を怠る重大事件を引き起こした」と、正恩氏から激しく叱責された軍ナンバー1の李炳哲元帥は、政治局常務委員(党中央軍事委員会副委員長)と元帥の任を解かれ、同じくナンバー2の朴正天元帥は、軍総参謀長の地位は保ったものの、階級は次帥に降格された。

また、国防相(旧人民武力相)を務めていた軍ナンバー3の金正寛大将は、2人に連座したかどで国防相を解任されただけでなく、政治局員から政治局候補委員に降格された。ほかにも同会議では党や軍の大幹部が次々と〝解任〟され、さながら「粛清クーデター」の様相を呈していた。

「正恩氏は今年12月で権力継承から10周年を迎えるが、これまでも頻繁に党や軍の人事を行ってきた。例えば、軍総参謀長の場合、今回更迭された朴正天氏で7人目。10年近く務めるのが当たり前だった正日氏の時代とは大きく異なり、1人あたりの平均在任期間は1年ほどしかありません。熾烈な権力闘争が絶えず行われている証しです」(軍事アナリスト)

消えては現れる“バブル人事”

7月15日、韓国の対北朝鮮所管部署である統一部は、金正寛氏の後任に、社会安全相(旧人民保安相)の李永吉大将が「任命されたようだ」と言及した。

「日成氏の命日にあたる7月8日、錦繍山太陽宮殿の参拝で整列した際に、李永吉氏が国防相の位置に立っていたこと、軍服の襟元が陸軍を示す赤色の縁だったことなどが判断基準になったようです」(北朝鮮ウオッチャー)

実は、この李永吉氏は一度〝死んだ〟とみられた人物で、2016年2月10日に韓国の『聯合ニュース』は、当時、軍総参謀長だった同氏が『軍内に派閥をつくり、分派活動をしたことで銃殺された』と報道している。情報の出所が韓国の情報機関「国家情報院」だったことから、日本のメディアもソウル発で取り上げていたことは記憶に新しい。

「ところが、それから数カ月後に生存が確認され、浮き沈みを繰り返した後、今年1月に開かれた第8回党大会で社会安全相に任命されたのです」(同)

ほかにも一度は処刑されたと報じられ、その後に復活した例としては、正恩氏の個人秘書で「1号宅(筆頭側室)」でもある玄松月党副部長がいる。彼女は13年に「公開処刑された」と報じられており、まさしく泡のように消えては現れる〝バブル人事〟が、北朝鮮では延々と繰り広げられているのだ。

また、異例の昇進を遂げた李炳哲氏と朴正天氏が、党政治局拡大会議であっさり降格されたのは、与正氏と対立して敗れたからとの見方が浮上している。

「与正氏は20年6月、脱北者団体による批判ビラ散布に強い不快感を示し、韓国に対する部隊の展開を軍に求めると発表しました。さらに、その4日後には開城にあった南北共同連絡事務所を爆破して、世界を驚かせたのです」(前出・軍事アナリスト)

兄妹が泡のように消える日…

ところが、党中央軍事委員会と軍総参謀部は、与正氏の要請を拒否。軍事行動を保留して与正氏の面子を潰すことになった。李炳哲氏と朴正天氏が命令を下したとみられていた。

「与正氏が2人の降格を前に、50歳以上の師団長と軍団長を大幅に入れ替えて世代交代を実現し、軍を掌握するため周到な準備を行っていたことも分かっています」(同)

しかしながら、与正氏もまた浮き沈みが激しい。日本のメディアは1月12日、与正氏が党指導部を外されて〝出世〟が止まったと報じているが、7月8日に錦繍山太陽宮殿を参拝したときの集合写真では、与正氏が「政治局員候補」以上の位置に立っており、内外に復権を印象付けることになった。

とはいえ、北朝鮮が労働党による組織支配に路線変更したことで、金一族という威光もかつての効力を失いつつある。

「何しろ日成氏の直系とはいうものの、2人は正日氏の愛人だった在日朝鮮人を母としていますから、しょせんは枝葉にすぎません。ゆえに真の直系と言える金正男氏(正恩氏の異母兄)を、どうしても暗殺する必要があったのです」(前出・国際ジャーナリスト)

日成氏と正日氏には、傍流や隠し子など30人あまりが存在し、中には党の主要ポストに就いている人物もいるといわれる。

「党規約の改正で、組織を支配するのは朝鮮労働党であり、『金日成主義』『金正日主義』であると明言された今、30人のうちの誰かを党や軍が担ぐことも起こり得ます」(同)

いよいよ、正恩氏の〝操り人形〟説が濃厚になってきた。権力を維持してきた正恩氏、与正氏の兄妹が、泡のように消える日が来ないとも限らない。

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