「ゴジラ松井の巨人監督就任に障害はなくなった―」渡邉恒雄氏の逝去で長嶋茂雄“最後の願い”が実現するXデー


もっとも、長嶋は表向きには「ジャイアンツの終身名誉監督としては移籍にノー」としながらも、内心では松井の挑戦を「ノープロブレム」で後押し。強く引き留めることはせず、「自分の好きな道を歩め」と背中を押した。

松井がメジャーを意識したのは、巨人入団後に長嶋から「俺はお前をジョー・ディマジオに、日本のジョー・ディマジオにしたいんだ」と言われたことがきっかけだ。

長嶋も現役時代にドジャースからの誘いがありながら挑戦できなかった過去がある。自身の叶わなかった夢を弟子の松井に託したいという強い思いがあったはずだ。

ただ、巨人のオーナーだった渡邉氏は経営トップの立場上、看板選手をメジャー移籍させるわけにはいかない。あらゆる手練手管を弄し、松井を巨人に縛り付けようとした。

「裏切り者」「恩知らず」と責められ…

例えば、「5年50億円」という破格の大型契約を提示する一方、松井の父親・昌雄氏に手紙を書き、膝に不安を抱えていた松井のために東京ドームの人工芝を天然芝に張り替えるプランがあることを伝え、その情報をメディアに流して巨人残留へ世論を誘導した。

いかにも巨人、そして渡邉氏らしいやり口だった。

それでも、松井はメジャー行きを決断する。メンツを潰された渡邉氏は松井を「裏切り者」「恩知らず」と責め、「俺の目の黒いうちは日本に帰って来れると思うな!」と激怒したといわれている。

事実、松井はメジャー挑戦を表明した記者会見で、「何を言っても裏切り者と言われるかもしれないが、いつか『松井、行ってよかったな』と言われるよう頑張りたい」と悲壮な心境を口にしている。

誰からも好かれる松井の人柄はよく知られていたし、FA行使は選手の正当な権利でもある。松井が負い目を感じる必要は一切なく、巨人ファンの多くが松井を裏切り者と考えてはいなかったはずだ。

しかし、渡邉氏はそうではなかった。渡邉氏の頭にあったのは常に読売新聞の覇権であり、その最強の宣伝ツールである巨人を、永遠に強い人気球団にすることが最優先事項だった。