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東芝買収が一転白紙!水面下の裏事情~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』(C)週刊実話Web

4月7日、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズなどが、東芝に買収提案をした件が、急転直下、事実上の白紙となった。

CVCは、3割のプレミアムをつけた1株5000円で、7月にもTOB(株式公開買い付け)を実施する予定だったのだが、19日までに「暫時検討を中断する」などとした書面を東芝に送付。今年1月に東証一部に復帰したばかりの東芝は、再びの激震をひとまず免れた格好だ。

東芝は、2015年に不正会計が発覚し、翌年には米国の原子力事業で巨額の赤字を出して、債務超過に陥った。会社の存続が危ぶまれる中で、東芝は経営の柱だった東芝メモリ(現キオクシア)を分社化し、投資ファンドに全株を売却することで、債務超過を解消した。その後、東芝はキオクシアに再出資し、40%の株式を持っている。

ただし、それが可能になったのは、17年末に約60もの海外投資家を対象にして、6000億円の大型増資を実施したためだ。だが、この資本調達が、その後、東芝の経営陣を苦しめることになる。

今年3月の臨時株主総会では、旧村上ファンド系の投資ファンドで、筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが提案した議案が可決され、東芝は外部の弁護士による調査を受けることになった。循環取引などの不正会計の疑いが浮上したからだ。

東芝の経営陣は、こうした「モノ言う株主」による追及に辟易していた。そのため、東芝はCVCによる買収で非上場化し、モノ言う株主の排除に乗り出す方針だったとも囁かれた。さらに今回の買収劇は、経営陣が繰り出した茶番劇との見方もあった。辞任を表明した東芝の車谷暢昭社長が、18年に東芝に転じる直前まで、CVC日本法人会長を務めていたからだ。モノ言う株主に追い詰められた車谷社長が、古巣のCVCに依頼し、その排除に乗り出したという見方もあったのだ。

東芝グループが瓦解してしまうところだった…

一方、CVCは投資ファンドなので、2兆円もの資金を出して長期の視点で東芝の経営を支えることはあり得ないともみられていた。もしも買収が成功したら、資産の切り売りと大規模リストラを断行し、短期間で利益を出そうとしただろう。

東芝は、日本の家電産業を常にリードしてきた。日本初の電気冷蔵庫、電気掃除機、電気洗濯機、カラーテレビは、すべて東芝が開発したものだ。しかし、東芝メモリの売却前に、東芝の白物家電は中国の美的集団に売却され、東芝のテレビは中国の海信集団に売却された。このままいけば、東芝グループが瓦解してしまうところだったのだ。

1980年代まで、日本は世界でも類を見ない「外資系企業の少ない国」だった。また、日本企業が外資に買収されることもほとんどなかった。それは、企業とメインバンク間、あるいはグループ企業間で株式の持ち合いが広く行われており、株式の過半を支配することが事実上、不可能だったからだ。

しかし、「選択と集中」の掛け声の下、会社が生き残るために事業部門を切り売りすることが珍しくなくなり、株式の持ち合いは解消に向かっていった。その結果、会社はモノ言う株主対策として短期の利益確保に走り、長期的な視点からの事業運営ができなくなった。それが、日本経済転落の主因だ。

原発事業や軍事機器など国策に関わる東芝の買収には、政府の合意が必要だ。今回の買収劇に、政府はどのような態度で臨むつもりだったのか。それは、菅政権が日本の産業の未来について、何を考えているのかを知る試金石にもなったハズだが…。

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