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『大コメ騒動』/1月8日(金)より全国ロードショー~やくみつる☆シネマ小言主義

井上真央
井上真央 (C)週刊実話Web

『大コメ騒動』
監督/本木克英
出演/井上真央、室井滋、夏木マリ、立川志の輔、左時枝、柴田理恵、鈴木砂羽、西村まさ彦、内浦純一、石橋蓮司
配給/ラビットハウス、エレファントハウス

今から102年前、大正時代に全国で起きた米騒動。そのきっかけが富山の貧しい漁師町の「女一揆」だったことは、史実としてうっすら記憶にありました。その原動力が、富山の「おかか」たちの情が深くて威勢のいい、そんな気風だったことを知った面白い映画でした。

出演者も室井滋、柴田理恵、西村まさ彦、立川志の輔と富山出身スターが揃い踏み。さらに富山県では元旦先行公開と、『翔んで埼玉』的な地域活性化ムービーになるのでしょうが、他県出身者にも十分に楽しめます。

自分はこれまで、一度も行ったことのない富山県。石川とも新潟とも違う県民性(?)が興味深かったです。

主演の3人の子を持つ女仲仕、井上真央は神奈川出身ですが、先日のNHKドラマ『少年寅次郎』の母親役の好演といい、昔の可愛いだけのイメージから脱して、地に足の着いた演技が光っています。そして、影のドン的おばば役の室井滋。実際に滑川の浜の娘として育ち、モデルとなったおばばを幼少時に見ていたというだけあって破壊力十分。ひょうきん族の「知っとるケ」を彷彿させる怪演です。

出演者たちがまくし立てる言葉も大正時代当時の富山弁だそうで、一部はかなり意味不明。まあ、それもご当地映画あるあるで、見る方も分からないなりに楽しむ余裕が欲しいですよね。

弱腰に描かれる男側の擁護に回りたくなった…

(評価の)星を一つ減らしたのは、家族を飢えさせたくない一心でついに決起したおかかたちのラストの暴動シーン。コミカルな音楽があてられて、やや食い足りない点にあります。おかかたちがいくら気丈とはいえ、米俵の積み出しを阻止する相手は屈強な浜の男連中。男らも本気で対抗しようとすればできたはずで、そこは「女には手を上げられない」昔の男の宿命かなと。弱腰に描かれる男側の擁護に回りたくもなりました。

ただこの結果、役所も善処の方向に動いたのですから、よかったです。翻って現代のコロナ禍でも同様のレジスタンス運動がそこここで起きてもおかしくない逼迫した状況。それでも我々が取れる策は選挙で1票を投じるだけと、為政者に舐められっぱなしなのが実に悔しい限り。

さて、方言と県民性に話は戻りますが、自分は縁あって高知県四万十市の観光大使を仰せつかり、年に何度か通っているのですが、「はちきん」と呼ばれる高知の女性と富山の女性は似ています。さらに語尾の「~だや、~がや」や、イントネーションが土佐弁と富山弁はそっくりなことにも気付きました。かなり離れているのに、言葉も気風まで同じとは驚きで、他所でもそういう相関パターンがあるのか、考察したいテーマが増えた思いです。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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