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政権維持とオリンピックに夢中の菅首相~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

10都道府県で発令された3回目の緊急事態宣言が、沖縄を除く9都道府県で解除されたのは6月21日のこと。東京、北海道、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7都道府県で「まん延防止等重点措置」に移行した。

それから、わずか3週間――。新型コロナウイルスの感染の再拡大が続く東京都に対し、政府は7月12日から来月22日まで、4回目の緊急事態宣言を出すこととなった。この間の顛末を振り返る。

6月18日、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら有志が、東京五輪・パラリンピック開催への提言をまとめた。「無観客開催が望ましい」としたうえで、観客を入れるのであれば開催地の人に限り、感染拡大の予兆があれば即座に無観客とすることを求めた。しかし、政府は提言を無視した。

21日には組織委員会、東京都、日本政府、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)による5者協議を開き、観客の上限を「会場定員の50%以内、最大1万人」とした。しかも、大会関係者を別枠としたことから実質的に2万人近い観客を容認する結果となり、同時に県境を越える移動も認めた。

こうしたなか、24日の定例会見で宮内庁の西村泰彦長官は、天皇陛下が名誉総裁を務める東京五輪・パラリンピックについて「開催が感染拡大につながらないか懸念されていると拝察している」と発言。これに対して菅義偉総理、加藤勝信官房長官、麻生太郎財務大臣は「長官個人の見解を述べたもの」と口をそろえた。

しかし、宮内庁長官が陛下の考えと異なることを会見で話すことはあり得ないし、仮にそうなら長官を罷免すべきだ。憲法の規定で天皇は政治介入ができないことになっている。そのなかで、陛下は熟慮の末、ギリギリのところでメッセージを発したのだろう。にもかかわらず、政府はそれさえ無視したのだ。

菅総理はリーダーとしての資質を欠いている

私は6月26日に放送されたテレビ朝日系『朝まで生テレビ!』に出演したのだが、その時、司会の田原総一朗氏が驚きの発言をした。21日に田原氏が菅総理と会ったとき、「コロナで経済対策をどうするのか」と質問したところ、総理は「今、僕の頭の中は、このコロナで五輪をどうやるかでいっぱいだ」と答えたというのだ。私は、これが真実だと思う。これまで菅総理が、五輪開催を最優先する政策を採り続けてきたからだ。

東京の新規陽性者数は、すでに明確な上昇に転じている。ウガンダの選手団からは、2人のデルタ株(インド株)の感染が明らかになった。しかも、それ以外に4人の大会関係者が、陽性判定を受けていたことを政府は隠していた。誰がどう考えても、五輪開催が感染「第5波」を招く可能性が高いのに、なぜ菅総理は五輪に夢中なのだろうか。

最大の理由は、政権の維持だろう。未来のことは分からないから、感染が一定程度に抑制され、五輪が無事開催できる可能性はゼロではない。五輪が成功すれば、秋の自民党総裁選も、衆議院選挙も安泰だ。しかし、それはとても危険な賭けだ。国民の命と暮らしを大きな危機にさらすからだ。

登頂寸前で天候が急変したとき、登山隊の隊長は引き返す勇気を持たなければならない。隊員を巻き込んでしまうリスクがあるからだ。そうしたことを考えない菅総理は、リーダーとしての資質を欠いている。

緊急事態宣言のなかで開催される東京五輪・パラリンピックが、なぜ「安心・安全」なのか、私にはまったく理解できない。どうしても開催するというのなら、感染が急拡大した場合は中止するというのが最低条件ではないだろうか。

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