〝世の中は澄むと濁るで大違い、刷毛に毛がありハゲに毛がなし〟。
三代目三遊亭金馬が落語の枕によく振った都々逸じゃないが、ボリス・ヴィアンの小説『墓に唾をかけろ』をもじった題名の本書。学べて笑える言葉とがめをさせたら日本一、言論界の小言幸兵衛たる著者の筆捌きが快刀乱麻の切れ味な社会時評集だ。
相変わらず猖獗をきわめるいわゆるキラキラネームだが(身近な例で最近、耳にしたのはある実力派の噺家の孫。〝護空海〟と書いて『ごくう』と読ませる名前だとか。筆者ならこの文字面からは『じえいたい』か、あるいは漢文式に返り点をつけて護ル 二空海 ヲ一 で『しんごんしゅう』としか読めない)、呉氏はこの呼び方自体をバッサリ斬り捨てる。「夜露死苦」など暴走族やヤンキーが好んで使う、無理やりな漢字表記と同じセンスゆえ、キラキラネームでなく暴走万葉仮名とすべきと提言した上での指摘が鋭い。
何度でも精読に値する
「(暴走万葉仮名の子供は)名門幼稚園の入試ではねられるし、将来就職試験の時も同じ憂き目にあう」「事件報道でも(中略)よく見るような気がする。相関関係があるのかないのか、計量社会学者の出番だろう」。
だったら、かつて松平竹千代から元康、やがて徳川家康に落ち着いたが如き幼名・元服の制度もついでに復活してはと、余計な提案まで添えたくなるのはさておき。
昨今とみに猛威を振るう、LGBTへの理解増進の法制化や差別の撲滅を錦の御旗に掲げた一連の動きの根底にある人権思想について、それが普遍の真理でなく近代のイデオロギーにすぎぬ点を繰り返し検証する諸章は、何度でも精読に値する。「支那」が差別語でないのと同様、著者が数十年倦むことなく説き続けた主題だけに。
(居島一平/芸人)
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