『ぼくのお父さん』新潮社/1265円
矢部太郎(やべ・たろう)
1977年生まれ。芸人・マンガ家。97年に『カラテカ』を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。シリーズ120万部超の大ヒットとなった。
――矢部さんのお父さんは絵本・紙芝居作家として活躍しています。どんな方ですか?
矢部 いつも家にいて絵を描いていました。ご飯を食べる前におかずの絵を描き始め、結局、冷めてしまったりして、よく困っていましたね。母がフルタイムで勤めに出ていて、父は家で仕事をしていたので、いつも一緒だったような気がします。あまり仕事をしていた記憶はなくて、一緒にスケッチしたり、遊んでいたことばかり覚えています。
また、廃品工作が好きで、なんでも捨てずに取っておいては、なにか作っていました。誕生日のプレゼントなどは、いつも手作りのおもちゃやゲーム。段ボールで作ったテレビゲームをもらった時は正直、困りましたね(笑)。そんな父から一番影響を受けていることは、〝物を作る過程そのものが喜びである〟という考え方です。
――矢部さんの日常を観察してつけた絵日記が本書を描くヒントになったとか。どんな内容だったのですか?
矢部 今日は公園に行ったとか予防注射したとか、日々の出来事が絵と共に描かれていました。今読んで思うのは、僕にとっては世界の大部分を占めていた父も一人の人間で、悩みや不安でなにが正解が分からない中で生きていたのかなと思います。絵から伝わるものも多くて、日常の連続性が感じられますね。
明らかに他のお父さんと違うところが…
ところどころ創作メモのようなものもあるので、そういった目的もあったかと思います。すでにこれ自体が貴重な記録で作品だと思うのですが、僕の目線で読み直すことで、また別の形で作品に昇華できたらという思いもありました。
――一般的な〝子育て〟とはちょっと変わっていますね。小さい頃はどう感じていたのでしょうか?
矢部 いつも一緒にいて、何か作ってくれたりするのはうれしかったですが、将来、こんな風にはならないようにしないと…、と薄々思っていました(笑)。家で2人でいるときはあまり思わないのですが、外出した時や他のお父さんと一緒になる機会があると、明らかに違うところがあって「嫌だなぁ」と思っていました。
――ノスタルジックな心温まるストーリーが好評です。お父さんの感想はどうでしたか?
矢部 照れて「こんな理想の父親みたいに書かないでよ~」と言われましたね。でも、その一方で「もっとダメなところを書いた方が作品として面白いよ」とも言われました。僕としては十分ダメに描いたつもりなんですがね(笑)
(聞き手/程原ケン)
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