『騙し絵の牙』
監督/吉田大八
出演/大泉洋、松岡茉優、宮沢氷魚、池田エライザ、斎藤工、中村倫也、佐野史郎、リリー・フランキー、塚本晋也、國村隼、木村佳乃、小林聡美、佐藤浩市
配給/松竹
大泉洋を主人公にあてがきした前代未聞のベストセラー小説が、実写映画化。
今までも大泉洋主演の映画をいくつか見てきましたが、本作ではいつになく抑制を効かせた演技で見応えがありました。笑顔で人の裏をかく〝策士〟の雑誌編集長役。あてがきされただけあってハマっています。
そして何より、新人編集者役の松岡茉優。かねてより上手い女優だとは思っていましたが、実は「周りの役者を上手く見せる女優」でもあるのではないかと。これは、たまたま見たBSのTV番組で、山田洋次監督が倍賞千恵子の偉大さを表現した言葉なんですが、松岡茉優の魅力も、ここにあるように思いました。本作での大泉洋の輝きは、彼女との掛け合いから生まれているのかも。
さて、出版不況、〝オワコン〟と言われて久しい出版業界で、生き残りをかけた攻防を繰り広げる本作。自分もその業界に関わる1人として、出版界が舞台になるのはシンプルに嬉しい。
雑誌の企画会議、文芸誌の賞選考の内幕、出版社の取締役会など、興味深いシーンが続き、一編の小説、1冊の雑誌ができるまでには編集者たちの意地と情熱のぶつかり合い、もみ合いがある。改めて、よき世界よと感じ入って見ました。おそらく、この『週刊実話』の編集部でも、次週のヤクザ記事1つにしても、この切り口で行こうなどと、熱く討議されていることでしょう。
「映画じゃなくて連ドラで見たい!」
昨今、幅を利かせるネットメディアでは、様々な雑誌記事の二次使用や情報源の不確かさも散見され、見ているとだんだん腹が立ってきます。文春砲じゃないですが、斜陽と言われつつも、このところ最も気を吐いているメディアは雑誌じゃないですか。個々人で映像を撮り、SNSに投稿して利潤を得る時代ですが、ややもすると前時代的ともなりかねない。みんなで力を合わせて作り上げることへの再評価というか、引き戻しと感じられて仕方がないのは、自分が出版側の人間だからでしょうか。
映画界も同様ですよね。本作に集結した主役から端役まで贅沢な顔ぶれで、全員が嬉々として演じている。残したい、頑張って欲しいという願いに突き動かされているんじゃないですか。
消えゆくものに寄せる情と言えば、松岡茉優の父親が経営する「街の小さな本屋さん」を忘れてはいけません。出版文化の一翼を担ってきた本屋さんに対する哀惜を絡めるあたり、この脚本の巧みさを感じました。
「これ、映画じゃなくて連ドラで見たい」というのは、一緒に見たカミさんの感想。1回で見終わるのはもったいないと。確かに、そうかも。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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