田淵幸一「村山タイガースなら帰るが、阪神タイガースなら帰りたくない」2代目ミスタータイガース・村山実の素顔

若きエース江夏豊と村山実の関係

もっとも、これは本人同士というより、それぞれを担ぐ球団内の派閥の対立だった。

権力抗争に翻弄されながらの監督兼任は、負けず嫌いの村山にとっては苦しい時期だったに違いない。

豪放磊落なイメージの強い村山だが、筆者が現場で接した印象は飄々としていて面倒見の良い“浪花節の監督”だった。

よく語られるのが若きエース江夏豊との関係である。

マスコミでは「不仲」「内紛」「造反」と派手に報じられたが、実際はそこまで険悪だったわけではない。

村山は江夏を思えばこそあれこれ口を出し、江夏にとってはそれがプライドを傷つける“おせっかい”に映ったのだ。

筆者も村山が裏で「アイツも悪気はないんや」と江夏をかばう場面を、何度となく目にしている。

実際、江夏が八百長疑惑で謹慎処分を受けた際も、村山は処分軽減のために奔走した。

兵庫県警の捜査リストに名前があり、下手をすれば黒い霧事件のように永久追放もあり得たが、村山の尽力で事態は収束。復帰戦では江夏に付き添い、マウンド上で揃って頭を下げた姿は今も語り草だ。