江本孟紀「ベンチがアホやから!」発言の真相 阪神タイガース番記者がベンチ裏事件簿の取材メモを初公開

「辞めろと言われたのと一緒。じゃあ辞めます」

あの日、ロッカールームから出てきた江本は記者の囲み取材に応じ、改めてベンチ批判をしたことを肯定している。

念のため言っておけば、スポーツ紙の見出しは正確ではない。

確かに江本は暴言を吐きまくっていたが、「ベンチがアホやから野球がでけへん」とは言っていない。

江本自身も興奮していて自分が何を言ったのかは覚えておらず、このセリフは我々記者が江本の悪態を組み合わせて書いたものだ。

そのため江本もしばらくの間、「あの発言は作られたものだ。俺は言ってない」と公言していた。

とはいえ、公然とベンチ(首脳陣)批判をしたことには変わりはない。

発言を重く見た阪神球団は翌日に「10日間の謹慎」を下したが、処分を告げられた江本は「この時期に10日何もしなければシーズンは終わる。辞めろと言われたのと一緒。じゃあ辞めます」と言い出した。

球団側もまさか引退するとは思っていなかったのだろう。

阪神の小津正次郎球団社長はスポニチのI記者を通じて「なんとか阪神に残るように説得してくれないか」と筆者に依頼してきたが、「江本が決めた以上、きっと引退の気持ちは変わりません」と答えた。

何度かのやり取りの末、小津球団社長が渋々持ってきた小さな紙に署名し、経理に預けていた三文判を押して江本のプロ野球人生はあっけなく幕を閉じた。

江本の電撃引退は世間を大いに驚かせたが、以前から何度も首脳陣批判を耳にしていた筆者にとっては起こるべくして起きた事件だった。

ただし、その批判は勝つことに真剣に向き合っていた故のことである。