江本孟紀「ベンチがアホやから!」発言の真相 阪神タイガース番記者がベンチ裏事件簿の取材メモを初公開

「アホらしくてやってられん!」

1981年8月26日、甲子園での対ヤクルトスワローズ戦。先発した江本は7回1失点と好投していたが、8回表に4-4の同点に追いつかれ、なおもピンチの状況で降板を命じられた。

記者席にいた筆者は監督の中西太が江本の降板を告げると同時に席を蹴って立ち上がり、ベンチ裏へ走った。

降板した先発投手のコメント取りは番記者に課せられた必須の取材だ。

一塁ベンチの裏からロッカールームに続く通路は緩やかな坂になっており、ちょうど江本がベンチ裏に出て来たところに出くわすと真正面から目が合った。

「アホらしくてやってられん!」

江本は怒りに満ちた表情で吐き捨てるように叫ぶと足早に歩きだした。

最初の「アホ」発言を聞いていたのは筆者だけ

周囲に他社の記者はいなかった。実は、筆者にとって江本は法政大学野球部の1年後輩になる。

同じ釜の飯を食った仲という関係に気を許して、つい本音をぶちまけたのかもしれない。

少し遅れて記者席から下りてきた日刊スポーツのU記者とサンスポのT記者が筆者を追い越して行ったが、一歩間に合わず江本はロッカーに消えていた。

この先に記者が立ち入ることはできない。

この時点で「アホ」発言を聞いていたのは筆者だけである。

記者の性として「江本大荒れ」「首脳陣批判」の独占スクープの見出しが頭に浮かんだが、同時に、「これはちょっとマズいかも」という思いもよぎった。