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蝶野正洋『黒の履歴書』~とても不義理なダブルブッキング

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

なんでもありに思われがちなプロレス界においても、あってはならないことなんだけど、いわゆる「ダブルブッキング」が起きてしまったようだ。

カール・アンダーソンという外国人選手のNEVER無差別級タイトルマッチが、11月5日の新日本プロレス大阪府立体育会館大会で行われる予定だったんだけど、アンダーソン選手が一方的に来日拒否。試合が中止になってしまった。

アンダーソン選手は、同日の11月5日に行われたWWEのサウジアラビア大会への出場を明言していて、どうやら日米2つの団体を天秤にかけたと思われる。

試合を組むマネジャーが、よっぽどやらかしたという可能性もあるけど、これはダブルブッキングというよりも、最初からWWEに行くつもりだったんだろうね。

アンダーソン選手は、新日本プロレスがかつて運営していたLA道場で寝泊まりしていたという苦労人で、2008年ごろからレギュラー参戦を始めて常連となり、IWGPタッグのベルトも巻いている。

それが2016年に新日本を退団してWWEに移籍。しばらく中堅どころで活躍してたけど、20年に解雇されてしまった。それで今年の5月くらいから再び新日本プロレスのリングに上がっていたんだけど、結果的に砂をかけて出て行ったってところだね。

こういう調子のいいヤツは、どの世界にもいる。自分に価値があると見せかけて、さんざん焦らして、結局は自分の都合だけで動く。大物ぶってるけど、やってることは小物というタイプだよ。

プロの世界だから、少しでも条件のいい所を選ぶという姿勢は間違ってはいない。でも、世話になった人たちに不義理をしてはいけないというのもまたプロの世界なんだよ。

チャンピオンベルトも所持したまま…

こういうダブルブッキングがあった以上、アンダーソン選手はプロレス業界全体から信頼されなくなる。今後はどの団体もオファーしなくなるんじゃないかな。

ただ、裏切られた新日本プロレス側にも脇の甘いところがあったと思う。選手側の立場が強くなったということもあるけど、昔のような業界事情に精通したタフなネゴシエーターがいなくなったのかもしれないね。

こうなったらタイトルを剥奪して契約を切ればいいんだけど、プロレス界ならではの問題があって、アンダーソン選手がチャンピオンベルトを持って行ったままみたいなんだよ。

ベルトというのは基本的には会社が管理する。でも、自分で持ち歩くタイプの選手もいるんだよ。俺もNWAのベルトを取ったときに預かっていたことがあるけど、重いし、荷物が増えるだけだから面倒だったよね(笑)。

過去には、ベルトを持って行かれたまま取り戻すことができず、仕方なく作り直すということもあったから、今回もそうならないようにしてほしいよね。

この原稿を書いてる時点では、何が問題だったのかハッキリしていない部分はあるんだけど、一番の被害者は試合を楽しみにしていたファンだよ。

こういうトラブルをストーリーにしていくのもプロレスではあるんだけど、もうそんな時代じゃない。ビジネスはビジネスとして、キッチリしていったほうがいいと思うね。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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