「名張毒ぶどう酒事件」解明のカギ握る新証拠と2時間の空白

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「名張毒ぶどう酒事件の迷宮・後編」
ジャーナリストの岡本萬尋氏が、事件の謎に迫る「シリーズ戦後未解決事件史」。今回は近年注目が集まっている再審請求――その中でも検察と弁護団の攻防が際立ち、世間の注目を集めた「名張毒ぶどう酒事件」(1961年発生)の“闇”をお届けする(全2回中の2回)。

名張毒ぶどう酒事件の迷宮・前編」を読む

わずか10分で毒を注入&偽装工作を遂行

次に(2)ブドウ酒瓶の王冠。農薬混入に際し奥西が歯で噛んで開けたとされ、死刑判決を支える唯一の物証だが、再審請求審でもその正当性をめぐり検察側・弁護側が激しく衝突してきた。

例えば、事件に使われたブドウ酒と同形状の瓶や栓を用いて、何者かが別の場所で開栓が分からぬように農薬を混入した可能性を示す弁護団の実験報告書について、第7次再審請求での最高裁第三小法廷の判断はこうだ。

確定判決の認定に沿って、奥西が生活改善クラブの会長宅でブドウ酒瓶を目にし公民館に運んだ事件当日の「午後5時20分ごろ」を起点に、酒が置かれた同館囲炉裏の間に人が集まり始めた同30分以降は開栓の目撃証言はないとして、この約10分間に酒瓶の封緘紙を破って耳付き冠頭(外栓)を囲炉裏の火ばさみで外し、その下の王冠(四つ足替栓)を歯で噛んで開けた後、持参した竹筒からニッカリンTを注入。

さらには替栓を元どおりかぶせて包装紙で包み直したと推認するのが「相当である」とし、弁護側が主張する「偽装的開栓」は「実験によってそのようなことも可能であることを示したにすぎない」と切って捨てた。

だが、これは本当に「抽象的な可能性にとどまる」(第三小法廷)のだろうか。

確定判決通りなら、犯行は一足遅れて公民館に来た女性会員が雑巾を取りに会長宅に戻った隙に行なわれたとされるが、その距離はわずか。

加えてこの時、別の住民が公民館の電線の修理をしていたとされている。第三者がいつ姿を見せてもおかしくない状況下で、奥西がこれだけの犯行を短時間で実行するリスクの高さに第三小法廷は目を向けていない。