田淵幸一“屈辱のトレード”全舞台裏 本人も知らない妻の一言「関東の球団がいい」

トレード最大理由は阪神の商売体質

翌日から田淵のトレード取材に入ったが、疑問だったのは、なぜミスタータイガースの田淵が放出されたのかという点だ。戦力面でも人気面でも田淵ほどの選手はそうはいない。

確かに、当時の田淵にはチーム内の人間関係や成績が多少落ちたといったマイナス面はあった。

また、阪神が次期監督を要請していたドン・ブレイザーが『田淵、藤田平、池辺巖はいらない』と監督に就任する条件を付けていたことも分かっている。

ただ、最大の理由は阪神フロントの根っこに、チームの強化より商売の論理を優先する体質があったからだと筆者は思っている。

事実、この2年前の’76年1月にはエースの江夏もトレードに出されている。

このとき、「選手が活躍すると年俸が高くなり球団経営を圧迫するため、阪神では実績のある選手ほど放出されやすくなる」という話があったが、田淵の場合もまさにその典型だった。

トレード発表の1週間後、筆者は阪神の小津球団社長宅を訪ねた。トレードについてもう一つ気になっていた「なぜトレード通告が深夜だったのか?」という疑問を直撃するためだが、小津球団社長の答えは意外なものだった。

「吉見くん、自分の胸に手を当てて考えれば、すぐ分かるだろ」

一瞬、間を置き筆者は「あっ」と思い当たった。小津球団社長は筆者と田淵が親友であることを当然ながら知っていた。発表前に筆者に情報が伝わったらどうなるか。

つまり、スポニチの独占スクープにさせないため、朝刊紙の締め切り時間が過ぎた深夜に呼び出し、トレードを通告したのだ。

そしてもう一つ。取材を続ける中で田淵が西武にトレードに出された別の理由もあることが分かった。これは恐らく田淵本人も知らない話だ。

それは田淵の妻・博子さん(’81年離婚)の影響だ。もちろん、野村克也に対するサッチーのような関係ではない。問題があったのは田淵の方だ。

ハッキリ言えば、田淵は昔から女性にモテモテで、私生活がスキャンダルメーカーだったためだ。