「おまえ、地獄で待ってろよ」芸能界引退・中居正広と故ジャニー喜多川氏“2つの性加害問題”の共通点



愛憎相半ばするというには、憎の部分のほうがかなり大きいのだが、とはいえ愛憎のどちらかに片寄っているわけではないというのが、多くの元ジャニーズの人たちに共通する見解のようだ。

すでに亡くなってしまったジャニーの加害責任を追及することに、異議を唱える声もあるようだが、海外の場合だと死後に補償を求められるというのは、決して珍しいことではない。

BBCの番組に企画前の段階から加わり、それがジャニーズ崩壊の端緒になったことは、一連の性加害事件における平本の大きな功績であろう。

そして平本による2つ目の大きな功績が、「国連によるジャニーズ問題への言及」を引き出したことであった。

2023年5月14日、ジャニーの性加害問題に対するジュリー社長の謝罪動画が公開されると、一気にこの問題を追及する報道が過熱した。

それは平本にとって喜ばしいことではあったが、まだ決め手に欠けるとの思いもあった。

この問題を世間に向けての謝罪で終わらせてはいけない。

それでジャニーズが生き残るのであれば、被害者たちは救われない。

被害者すべてが救済されるためには、どうすればいいのか。

被害は数十年前から続いていることであり、強制わいせつ罪などの現行法では罪に問えない事例も多い。

そうして考えた結果、思い至ったのが「人権問題」だった。

これはただのわいせつ事件ではなく少年たちの人権に関わることであり、被害者に対して何もせずに放置してきたことは、重大な人権侵害事案ではないか。

ジャニーの犯した罪は、個人としての性加害というだけではない。

ジャニーズ事務所という組織の仕組みが、加害に加担し、長期にわたる隠ぺいを可能なものとしてきた。

人権を侵害する組織犯罪であり「ジャニーズ問題=人権問題」なのだと考えたとき、たどり着いたのが国連だった。

平本が国連のホームページを調べると、人権について語られている項目がいくつもあった。

「忘れもしない2023年6月14日、僕の57歳の誕生日に記念となる仕事をしようと、日本で起こっている史上最悪な事件についてのメールを国連に送ることにした。英語はしゃべれないけど、文章であれば今はいい翻訳ソフトがあるから、それを使えばなんとか書くことができる。ある程度まで書いたところでソフトにかけて、それで間違いを訂正するという感じで頑張りましたよ」

被害そのものは過去のことであっても、多くの被害者たちは心身の害を抱えて安心して生きられる環境ではないということ、何千人もの被害者を生んだ性犯罪が放置されてきたこと、日本でそれが許されてきたこと、被害者たちのほとんどが未成年の少年だったことなどを記し、国連本部に支援を仰ぐとともに、スピーチをさせてくれるよう願い出る内容のメールであった。

国連へのメール送付と並行して、日本弁護士連合会(日弁連)の人権救済に関連する窓口にも同時期に申告をした。

「そうしたら国連と日弁連の両方から返事が来て、それでやっぱりジャニーズ問題は人権問題だったと確信を持つことができた。そのときはまだ当事者の会とかもつくっていなかったし、報道でもジャニーによる性加害がクローズアップされていて、被害者の人権問題として語られることはほとんどなかった。でも、精神的に病んで苦しみ、死んでしまった人が何人もいて、家族や親族、職場や学校にも影響する。完全に人権問題であると僕自身も考えを切り替えた」

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『ジャニーズ崩壊の真実 命を懸けた35年の足跡』日本ジャーナル出版

ジャニーズ崩壊の真実 命を懸けた35年の足跡
2024年9月13日(金)発売
本体1700円+消費税

■序章 まだ戦いは終わらない
・ストレスで満身創痍
・ジャニーズ事務所に「実質勝利」

■第1章 ジャニーズの実態
・ジャニー喜多川氏からの電話
・華やかな芸能界
・性被害の実態

■第2章 戦いの原点
・北公次氏の誘い
・全裸監督vsジャニーズ事務所
・北公次氏の反転~終息

■第3章 孤独な戦い
・出版社設立
・文春裁判
・BBCからのオファー
・ジャニー喜多川氏の死
・国連への手紙

■第4章 ジャニーズ消滅
・被害者の会設立
・交渉開始
・止まない誹謗中傷との戦い

■終章 補償の現状と未来
・人権と尊厳の回復のための戦い

平本淳也(ひらもと・じゅんや)
1966年6月14日生まれ。「ジャニーズ性加害問題当事者の会」元代表。ジャニーズ事務所に所属したタレントで作家。所属時には多くのステージを踏み、ドラマや映画、バラエティーなどで活躍。旧所属者たちと新生フォーリーブス、新・光GENJI、SHADOW(シャドー)を結成して性加害問題を提起した最初の実名告発者となる。ジャニーズ関連を含む書籍制作、著書は30冊以上。著作のほか記事や情報提供は無数にあり、メディア出演も多数こなしているジャニーズ性加害問題の第一人者である。

亀井誠(かめい・まこと)
1967年8月2日生まれ。三重県出身。早稲田大学卒業後、ナイタイ出版に入社。退社後はプロレス、格闘技をはじめ、芸能、社会風俗など幅広く取材するフリーライターとして活躍。著作に『プロレス、K1、PRIDE禁断のスキャンダル史』(日本文芸社)、『プロレスの悲劇』(オークラ出版)などがある。