「おまえ、地獄で待ってろよ」芸能界引退・中居正広と故ジャニー喜多川氏“2つの性加害問題”の共通点



ジャニーの異常性を世間に知らしめる

欧米において、権力を持つ著名人の性暴力が次々と明らかになり、いわゆる#MeToo運動も広がりを見せていたにもかかわらず、なぜ日本では、かねてから俎上に載せられてきたジャニー喜多川を追及しないのか。

BBCの取材は、そのことに対する疑問から始まったものだった。

ただし、この時点では番組制作が決まっていたわけではなく、まだ企画を立てる前の予備取材の段階であり、つまり、その打ち合わせに参加していた平本は、実質的に企画立ち上げから関わっていたことになる。

「BBCから連絡があったときは、まだジャニーは生きていたからね。2023年からのジャニーズ追及の動きについて、『ジャニーが死んでしまって弁明ができなくなってから告発するのは卑怯だ』などという人間もいるけれど、それが一番ムカつく。僕は35年前のジャニーが現役バリバリのときから、1人でずっと言ってきた。それを誰も聞く耳を持たずに無視してきただけ」

最初はBBC側の記者から、メールで「ジャニー喜多川に焦点を当てた番組をつくりたい」との連絡が入った。

「それで、面白いじゃないですかと即答しましたよ。日本のメディアは誰もそういうことを言ってくれない。YouTubeとかニコニコ生放送の配信者などからしか声がかからないのに、それをBBCがやってくれるという。なんといってもBBCはイギリスの公共放送ですからね。日本でいえばNHKと同格の存在で、その歴史や世界規模の影響力からすれば、NHKよりも権威がある」

そうして番組制作に向けて、内容やキャスティングなどの打ち合わせを続けている中で、2019年7月9日、ジャニー喜多川がくも膜下出血により亡くなった。

「それからも話自体は続いていたんだけど、ちょうど新型コロナの流行が始まって、BBCのスタッフが来日することが困難になった。向こうは『行けるようになったら行きます』と言うんだけど、水際対策がどうのこうのとドタバタしているうちに、あっという間に1年、2年が過ぎてしまった。それでようやく2022年9月に撮影が終わったんです。取材では僕個人だけでも10時間ぐらいインタビューされましたからね。ただ、番組で使われたのは5分ぐらいだったけど。そこはちょっと寂しいよね」と苦笑い。

取材においては、日英の問題意識の差をひしひしと感じたという。

「これまで日本の記者や媒体からは聞かれなかったけど、被害の状況をBBCの記者はしっかり聞いきた。日本人はどこか被害者に対して遠慮があってか興味がないのか、具体的に何をされたかまでは聞いてこない。こっちが『ホモ行為を強要された』と言えばそこでおしまいで、あとは記者側で勝手に脳内補完してくれるというか、具体的な内容については読者に委ねるようなところがあった。だけど、BBCの取材は容赦なかったね。これは決して悪い意味ではなく、こっちとしては詳細を話すことは精神的につらくて苦しいことなんだけど、でも、その被害の実態を明らかにすることによって、ジャニーの異常性を世間に知らしめることができるという。それが彼らにとってのジャーナリズム精神ということなんでしょう」

そもそも日本社会においては「ホモ行為」に対して、明確な共通認識が定まっていない。

どんなことが行われるのか、人それぞれによって頭に浮かぶ行為の内容は異なるだろう。

平本をはじめ告発者たちは、それを「やられた」という一言で済ませ、詳細までは触れないことで、過去のおぞましい記憶から自意識を守ってきた。

だが、時に世間の想像する「やられた」が、自分の実際にやられた行為よりもひどいものだったりする。

そうすると「やられた」と思われることの恥ずかしさや気持ち悪さが増幅して、それで、ついつい「やられていない」と言ってしまうこともある。

被害の事実をないものとすることによって、「自分は汚れていない」と自ら言い聞かせるのだ。