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「単に打ち合うのではなく」ボクシング元世界王者・八重樫東インタビュー~“激闘王”は職人気質

八重樫東
八重樫東 (C)週刊実話Web

今年9月に現役を引退した八重樫東は、ボクシング史に残る名選手と言っていい。世界3階級制覇、強敵から逃げず、真っ向勝負を展開する姿から〝激闘王〟とも呼ばれた。

現在はトレーナー、解説者、またユーチューバーとしても話題の八重樫に、現役時代を振り返ってもらった。その言葉から浮かび上がってきたのは、どこまでも真摯な〝ボクシング探求者〟の姿だった――。

相手のパンチを被弾しながら打ち返す〝激闘型〟ファイトスタイルについて、八重樫は「気が付いたらそうなってました」と言う。

八重樫「最初は足(フットワーク)を使うタイプだったんですが、勝つための選択肢として打ち合いもするようになっていきました。ポイントを取る闘いと打ち合いを使い分ける。それが最善の方法だったんです」

その〝使い分け〟が功を奏したのが、初めて世界タイトルを獲得したポンサワン・ポープラムック戦だ(2011年10月24日、WBA世界ミニマム級タイトルマッチ)。

八重樫が10ラウンドTKO勝利を収めたこの試合は終盤の打ち合いが語り草になっているが、打ち合いの中で基本中の基本、左ジャブが的確に決まっていた。

実は試合前、八重樫は右肩を負傷しており、麻酔を打ってリングに上がっていた。「その分、左(のパンチ)を練習してきた」のが活きたのだ。

また八重樫によると、打ち合いに至るまでの流れも重要だった。

八重樫「作戦を途中で切り替えたんです。前半は、まず足を使ってポイントを取っていくという作業をしました。でも、そのままでは勝てない。ポイントで負けていても突進して、その圧力に相手を巻き込んで倒すのがポンサワンの勝ちパターンですから。ポイントで勝つことにこだわりすぎると、それが僕の負けパターンになる」

「井上尚弥がアカレンジャーなら僕はミドレンジャー」

「だから、このままだと巻き込まれるなと思った時点でスイッチを切り替えて、自分も突進する。そうしないとポンサワンを止められないので。前半、ポイントを取っていても後半に疲れてきたら突進に巻き込まれるという怖さがあった。そこで勝つには自分も前に出て打ち合うのが一番いい方法だったということです」

負けてもいいからイチかバチかで殴り合うのではない。そして、怖いからこそ前に出る。このあたりはファイターならではの心理だろう。さらに「僕の性格もあると思います」と八重樫は付け加えた。

八重樫「トレーナーさんによると、僕が打ち合うのは『止めないし、止められない』と」

打たれたら打ち返す。そんなスタイルにはリスクが伴う。ダメージもある。ボクシングとは本来「打たせずに打つ」ことを理想とするスポーツだ。

八重樫「やっぱり井上尚弥みたいなのがいいボクシングなんですよね。僕は技術でいったら大したことない。でも、ボクサーとしての色は人それぞれでいいと思う。井上尚弥がアカレンジャーなら僕はミドレンジャーです」