森永卓郎 (C)週刊実話Web
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コンビニ経営者「時短営業」裁判の行方~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

時短営業をきっかけにフランチャイズ契約を解除されたとして、東大阪市のセブン・イレブン元経営者が、契約解除の無効を訴えた裁判が2月18日、最終弁論を終えて結審した。


元オーナーの松本実敏さん(60)は2019年、人手不足を理由として、本部の許可なく営業時間を短縮した。


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それに対して本部側は、同店へ顧客からのクレームが多いことを理由として、フランチャイズ契約を解除。同時に店舗の明け渡しを求める訴えを起こし、裁判は双方が相手を訴える形で進んできた。


判決は6月23日に下される予定になっており、それまでに和解が成立する可能性もあるが、私は裁判所の判断を知りたいと思う。「コンビニの経営者は、本当に経営者と言えるのか」という根本的な問題への判断を聞きたいからだ。


松本さんの「人手が足りないから、時短せざるを得なかった」という主張は、実は無理がある。近隣に大学がある立地のため、高い時給を提示すれば人はいくらでも集まるからだ。深夜営業をやめたのは、深夜に店を開けても客が入らず、赤字が膨らむからだろう。


一方、「元オーナーの暴力や暴言など異常な顧客対応」を契約解除の理由とする本部側の主張にも無理がある。元オーナーの性格は変わっておらず、昔から同じような行動をしていたのに、その時は本部からのおとがめがなかったからだ。


問題の本質は、コンビニ本部に営業時間を指示する強い権限を認めるのかどうかということだ。

“経営の自由”がないコンビニのオーナー

一般の商店の経営者であれば、営業時間の変更は自由で、何を仕入れるか、いくらで売るかという自由も、完全に保証されている。だから、結果の責任も完全に負う必要がある。たとえ報酬が出せなくても、それは自分自身で引き受けなければならない。自由と自己責任のセットだ。

ところが、コンビニのオーナーには、完全な経営の自由がない。割引販売は制約されているし、キャンペーン参加などの制約もある。そうした中で、営業時間を決められないということであれば、それは経営者ではなく労働者になるのではないか。


もし、労働者だということになれば、コンビニ経営者はさまざまな保護を受けられる。最低賃金も適用されるし、労働時間の規制も受ける。有給休暇を取る権利も与えられるのだ。


コンビニ経営者の中には、夫婦で24時間営業の長時間労働をしても、夫婦の年収が400万円というパートタイマー以下の労働条件に追い詰められている人もいる。しかも、途中でやめると、莫大な違約金を支払わないといけないので、営業をやめることさえ事実上、許されない。


実は、こうした経営者と労働者の中間に位置する人が、いまの社会では増えている。例えばウーバーイーツの配達員だ。彼らは、会社の指示通りに配達をしているにもかかわらず、形式上は個人事業主として扱われているため、最低賃金や失業保険、有給休暇が与えられないのだ。


そうしたことを考えると、今回の裁判の本質は、一裁判所の判断の問題というよりも、新しい働き方に対する法整備の不備が原因と言える。だから、国会は新しい働き方を労働者として守るのか、すべて自己責任として切り捨てるのか、はっきりと法律で示す必要があるのではないだろうか。