菅義偉首相“東京五輪後総選挙”ギラつく野望…4年の長期政権へ

「やっぱり長期政権を考えているのか。来年1月の解散はないかもしれないな」

10月25日夜のホテル椿山荘東京。持病の潰瘍性大腸炎の悪化で9月に辞任した安倍晋三前首相を囲む自民党保守系グループの懇親の席では、菅義偉首相が抱く〝野望〟が話題となった。

発端となったのは西村康稔経済再生担当相の発言だ。10月21日にIT企業経営者らとの懇談会で、新型コロナウイルス対策の一環として「1月11日は休み(成人の日)だ。そこまでの連続休暇とかを検討してほしい」と述べ、17連休を促すとも受け取れる発言をした。

衆院任期満了となる来年10月までを睨むと、1月は解散を打つ数少ないタイミングの1つ。そのためには国民生活に必須である2021年度予算の成立に影響を与えないよう、正月明けにも通常国会を召集する必要があるが、国民が連休中では踏み切りにくい。西村氏の発言は解散の選択肢を封じるものとして受け止められたのだ。

激怒したのは二階俊博幹事長だった。「西村は何を考えているんだ」。5日たった26日の自民党幹事長室。側近の林幹雄幹事長代理は森山裕国対委員長と連絡を取り、西村氏に伝えた。1日遅れで党本部に駆け込んできた西村氏の顔は青ざめていた。

通常国会冒頭や2020年度第3次補正予算成立後など、1月解散を視野に入れる二階氏にしてみれば「寝耳に水」の発言だったが、怒りの矛先が向かったのは西村氏だけではなかった。二階派の中堅議員が話す。

「菅さんにもだよ。西村発言を否定しなかった。長期休暇は官邸の方針なわけだ。二階さんの思い通りにはさせない意思表示と受け止めたんだよ」

これには伏線がある。菅政権の発足直後、自民党内には早期解散圧力が高まっていた。報道各社の内閣支持率は軒並み60~70%に達し、誰しもが「今、解散すれば圧勝できる」と受け止め、菅首相が解散を決断するのを、地に足がつかない状態で待っていたのだ。

菅首相“1月解散回避”の理由とは…

しかし9月28日夜、首相が東京・東麻布の中国料理店『富麗華』で二階氏ら党執行部メンバーと会談したのを境に、早期解散論は急速にやむ。首相が「今はコロナ対策と経済再生に専念したい。仕事をさせてほしい」と頭を下げたからだ。

ここで臨時国会を10月下旬に召集する日程が決定。解散の機運は一気にしぼんだ。だが、関係者によると、会談では解散を巡り「首相と二階氏の間で密かに確認事項が交わされた」という。それは「内閣支持率が50%を切る前に解散を検討する」というものだった。

臨時国会に続き、1月開会の通常国会でも菅首相が野党の追及を受ける以上、内閣支持率が50%台を保てるのは、せいぜい1、2月までとみるのが永田町の常識だ。すなわち確認事項とは、1月解散のタイミングを探ることに他ならない。

こうした経緯がありながら、首相は西村氏の長期休暇発言を容認し、いわば一方的に「1月解散」の目をつぶしにかかった。二階氏にしてみれば、解散と政局の主導権は渡さないと首相に通告したようなもの、というわけだ。

菅首相が1月解散を回避しようとしているのには理由がある。4年間の長期政権を目指すにはリスクがあるからだ。1月解散でも、衆院選に勝てば長期政権は可能だ。しかし、政治情勢次第で内閣支持率は下がりえるし、何らかのスキャンダルが出ないとも限らない。党内での求心力が低下すれば、来年9月の総裁選再選は不確実になる。