菅義偉首相“東京五輪後総選挙”ギラつく野望…4年の長期政権へ

全国でコロナ感染が拡大し、第3波の様相を呈している中、「冬に向けてコロナ対策が一層重要になるのに、解散などできるわけがない」(自民党中堅)という事情もある。

首相が自身の政権戦略を考えた場合、コロナ対策もさることながら、総裁選を確実に勝つには、1月解散を見送って解散カードを温存しておくことが肝要となる。総裁が握る解散カードは衆院選での公認権と同義であり、それゆえに求心力は維持される。「菅降ろし」につながりうる批判や不満を封じ込めることができるのだ。

とはいえ、この判断には来秋時点で内閣支持率は50%台を付けているという強い自信がなければできるものではない。首相の自信の根拠は何なのか。

首相に近い自民党無派閥のベテラン議員が話す。

「首相は、東京五輪を何が何でも開催すると決断している。五輪をやれれば、通常国会で支持率を落としても回復できる。首相の基本シナリオは五輪後解散だ。総裁選の無投票再選も狙っている」

東京五輪組織委員会の内部関係者によると、首相は、選手団の隔離と行動のコントロール、会場での感染防止対策の徹底で五輪開催を実現させようとしている。11月15日に来日した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長側ともこうした方針を確認した。

政府内には「参加国は、米中ロの3大国と韓国、欧州とアジア太平洋の主要国を中心に100程度あれば、御の字。メダルが有望でない国の中で不参加が相次いでもやむを得ない。北朝鮮は出場しなくても構わない」(政府関係者)との声もある。それが本音だろう。

先のベテラン議員は「菅首相は五輪開催を前提に来秋までの政治日程を固めた。1月の通常国会冒頭で20兆円規模の20年度第3次補正予算を上げる。3月中には100兆円超の21年度予算成立。会期は延長しても短期間だ」と明かす。

だが、菅首相にはいくつものハードルが待ち受ける。1つは首相自身の国会答弁だ。臨時国会の衆参両院の予算委員会は無難に乗り切った印象だが、米大統領選で霞んだために目立たなかっただけで、日本学術会議の任命拒否問題を巡る野党の質問にまともに答えられず、加藤勝信官房長官や首相秘書官が絶えず助け船を出していた。

政権の運命を左右する東京五輪

通常国会での本格的な予算委論戦に耐えられるかは、いまだに未知数だ。立憲民主党の枝野幸男代表は「堂々と国会でウソをつく首相なのか問わなければならない。国民への説明責任を果たさせる」と訴え、さらに追及を強める構えだ。

コロナ下において、経済が回復するのかも不透明だ。ワクチン開発で光明が見えてきたとはいえ、米国や欧州では第3波が猛威を振るっており、世界経済がひとたび失速すれば日本経済へのダメージは大きく、内閣支持率に影響が出るのは確実だ。

ここで決定打となりうるのは五輪中止の展開。首相の開催への意思は固いとはいえ、IOCは最終方針を下していない。冬に向けてコロナ感染拡大が止まらなければ、各競技団体の意向を受け、春先にも五輪中止という判断が下される可能性はある。

しかも4月以降、負けられない千葉県知事選など重要な選挙が待ち受ける。衆院選の前哨戦となる都議選や、リニア新幹線のトンネル工事の是非が争点の静岡県知事選は7月だ。カジノ誘致で揺れる地元・横浜市長選は8月で、これらの選挙に連敗すれば、衆院選を前に菅降ろしが起きないとも限らない。

第2次安倍政権から長らく政権を支えてきた杉田和博官房副長官が、学術会議問題の責任を取る形で辞任するのではないかとの観測も浮上する。来春80歳になる杉田氏は、首相に「辞めたい」と伝えたとも言われており、辞任となれば官邸は屋台骨を失う。

『週刊新潮』が報道した、首相の支援者による神奈川県有地の不当な転売問題は「構図が森友学園問題に似ている」(立民幹部)とされ、大きな疑惑に発展すれば政権を直撃する。

既に立民と共産党は地元組織を使って徹底調査に入っている。

立民を軸とした野党勢力は、候補擁立や選挙区調整など衆院選の準備を着々と進めている。国民民主党や共産党との共闘により、多くの選挙区で候補が一本化されれば、与党を浮足立たせることは十分可能だ。