「あんたのようにハッキリ言ってくれる人はいなかった」横井庄一が見合い当日に結婚を決めた理由【怪人/快人伝 第8回】

「パンダと同じ」小野田が抱いた不安

そうした横井は、昭和49(1974)年7月の参院選に担がれて出馬したが、結果、落選した。

この落選は、同年3月に同じく残留日本兵として、フィリピン・ルバング島から帰国した小野田寛郎(元陸軍少尉)へと人々の関心が移り、横井に対するメディアの扱いが終息気味だったのも響いたようであった。

小野田もまた横井と同様、激しいメディアの取材合戦にさらされていた。帰還後の小野田は、こう語っていたものだった。

「日本に帰って人間の渦に巻き込まれてしまったが、私は人間相手では生きていけない。私は、戦争と自然しか知らない人間だ。いまの私は上野動物園のパンダと同じ。1、2年後に興味が失われたとき、果たして誰が何をしてくれるのか」

それから約1年後、小野田はさっさと兄のいるブラジルへ渡ってしまったのだった。

2人の帰還した元日本兵の生き様は、戦後30年近くが経つなかで、文字通り戦後という時代が遠くなったことを伝えていた。
(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」10月1・8日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。