「落語家になるために生まれてきた男」立川談志の『芝浜』に見た“不世出の天才”の凄み【怪人/快人伝 第6回】

寄席通いで知った名人たちの芸

それまで私は、三代目桂三木助の軽妙にして、潮と魚のにおいが漂ってくるような臨場感のある「芝浜」を堪能したものだが、それとはまったくの異質、談志による夫婦のやりとりの場など、あまりの迫真ぶりに鳥肌が立ったものであった。

あるとき、談志に三木助との「芝浜」の違いの感想を投げかけると、ニコッとしてこう言ったものだった。

「そうかい。それはよかったですな」

談志の書籍、DVDのタイトルは『落語とは、俺である。』というものであった。時に傲岸、不遜を感じさせる物言いの一方で、シャイ、テレが同居していた談志は「人生、成り行き」との言葉も遺している。

談志と最後に顔を合わせたのは、平成22(2010)年の早春だったか、偶然、夜の総武線で乗り合わせ、私のいる前にすわっていたのである。すでに、がんの進行で体調がすぐれなかったのか、マスクから覗く表情は、それまで見たこともない険しいものだったので、声をかけるのをやめた。

不世出の落語家、立川談志は落語家になるために生まれてきた男だったと振り返るのである。
(本文中敬称略/次号は横井庄一)

「週刊実話」9月10日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。