【國澤一誠のゾッとする実話怪談】第八夜 電車の隙間――あの日から、ホームの下が見られない
■ 「待て」と叫ぶ男
何駅か電車が通過したところで、男性がブツブツと何かを言い始めました。
「何言ってるんだろ?」と気になって横を見ると、男性は顔を上に向け、目を閉じ、ひどく眉間を寄せながらこう呟いていました。
「やめろ……やめろって……だめだ! 待て! 待て!! やめろって!!」
次第に男性の声は大きくなっていきます。
怖くなった私が「この人から離れよう」と立ち上がろうとしたその瞬間、男性が――
「待て!!!!」
と大声で叫びました。
直後、キィィィィーッと凄まじい金属音を響かせながら、電車が急ブレーキで停車しました。
車内が「えっ? 何?」とパニックになりかけたその時、車内アナウンスが流れます。
――《人身事故が発生しました。確認のため、しばらくお待ちください》
横に座っていた男性は頭を抱え、グズグズと泣き始めました。
あまりにも激しく泣いているため、流石に無視ができず、私が「大丈夫ですか?」と声をかけると、男性はこう言いました。
「ごめんなさいね、大丈夫。飛び込んだ子はまだ若かったのに、可哀想だよ……」
しかし、座っている位置から、窓の外で何があったのかは見えません。
「この人、やっぱりおかしいのかな?」
「でも、話した感じは普通だったし……」
当時はオカルト系を全く信じていなかったため、私は結局「少し頭の変な人なのだろう」と思うに留めました。
■ ホームと電車の隙間
事故処理のため、電車はしばらくその場で停車しました。
隣に座っていた男性は、肩を震わせながら泣き続けていました。
あの涙は、取り乱した人間のものというよりも、まるで本当に誰かの最期を目の当たりにした人のようでした。
私は何も言えず、そのまま黙って座っていました。
やがて運転が再開され、目的の駅へ到着しました。
電車のドアが開き、ホームへ一歩踏み出した、その瞬間だった。
電車とホームの隙間。
そこから、一人の女子高生がこちらを見上げていた。
制服姿のまま、無表情で。
目だけが、じっと私を見つめている。
声は出なかった。
周囲では、何事もなかったかのように人々が行き交っている。
誰一人、その女子高生に気付いている様子はなかった。
あの男性は、事故が起きる前から、何を見ていたのだろう。
そして、私があの日見たものは、本当に事故で亡くなった少女だったのだろうか。
答えは、今も分からない。
ただ、それ以来――。
私は電車を降りるたび、ホームと車両の隙間を見ないように歩くようになった。
ごく稀に、その隙間から誰かがこちらを見上げていることがあるからだ。
あの日見た女子高生なのか。
それとも、別の誰かなのか。
それだけは、今でも確かめる勇気がない。
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國澤一誠(くにさわいっせい)
長年の怪談語りと取材活動を通して集めた膨大な怪談ファイルを持つ怪談家。
実体験や現地取材に基づいたリアルな描写に定評があり、YouTubeやトークイベントなど多方面で活躍中。
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