幻のラーメン屋『居酒屋×ラーメン 真珠』店主インタビュー「ラーメンで生きていくとか、天下を獲るなんて野心は一切ないんです」

最初にラーメンを食べたのは3人の仕事仲間

会社帰りに食材を買い込み、休みの日は丸一日ラーメン作りに没頭。鶏ガラ、豚骨、牛テール。限界まで野菜と肉を煮込み、塩、味噌、醤油とタレを研究した。

圧力鍋のピーという音に驚いたアパートの管理人が飛び込んできたこともあった。やがて、試作品の数も増えていくと、一人ではとても食べられる量ではなくなっていった。

谷川はついに人様にラーメンを食べさせることを決意する。自らの好みのエゴをこれでもかと詰め込んだその味は、人様にどのような感想を抱かせるのだろうか。アパートに呼んだ3人の仕事仲間に渾身のラーメンを振る舞う。

「初めて人様に出したラーメンは、いわゆる家系でした。鶏ガラと豚ゲンコツをしっかり煮込んだ醤油ベース。これが全員『美味しい』という反応が返ってきた。
『お店のラーメンと変わらない』なんて言われてしまうと、やっぱりうれしいものですね。そこからは月イチで、うちのアパートでいろんなラーメンを作っては食べてもらうことを始めました」

谷川進26歳の春。それは二度と戻れない“自作ラーメン”というケモノ道。自分が突き詰めた渾身のラーメンを、人に美味いと言ってもらえる快感。塩ラーメン、つけ麺、背脂こってり系…あらゆるラーメンに挑戦し評価を得られることで、谷川の中のラーメン顕示欲は次々と満たされていく。

ラーメンがうまくいけば、人生も回り出す。2006年、有名企業への転職が叶い給料は倍増。これにより、名古屋コーチンや黒豚などの高級食材を惜し気もなく投入することが可能になった。

さらに結婚し、奥さんという生涯の伴侶にして、ラーメンの最高のアドバイザーを手に入れると、新居は広いキッチンにバーカウンターとガスオーブンがある理想すぎる環境に。オーブンでチャーシューもできるじゃないか。そうなれば、麺だって自家製で打ちはじめたい。

谷川のラーメン欲は暴発寸前だった。

(中編へ続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」11月20日号より

『居酒屋×ラーメン 真珠』東京都渋谷区笹塚3-5-6

次回の開店は11月29日(土)は黒豚味噌ラーメン、12月28日は和牛テールラーメンの予定