幻のラーメン屋『居酒屋×ラーメン 真珠』店主インタビュー「ラーメンで生きていくとか、天下を獲るなんて野心は一切ないんです」

母が一言「ラーメン屋のスープはこうやって作るのよ」

次回の開店11月29日(土)は黒豚味噌ラーメン、12月28日は和牛テールラーメンの予定
謎を放置したまま、谷川は就職し、ラーメンのことなどすっかり忘れていた25歳のある日、体調を崩して入院し、退院してきた谷川のもとに母親が食事を作りに来てくれた。

母は手羽先スープを作り、味の素とごま油を足すと、ラーメンの味がした。母は言った。

「ラーメン屋のスープはこうやって作るのよ」

谷川のラーメン道に光が差した瞬間だった。

「ラーメンにはスープにタレと油がいる」

母が帰るや、すぐに残ったスープに醤油やサラダ油を混ぜてみた。

「ラーメンじゃないか」

たったこれだけの工夫で、劇的にラーメンになった。すごいぞこれは。まさに食のルネッサンス。味の文明開化ではないか、とひとしきり興奮した谷川は、気がつけばハナマサで鶏ガラ、豚骨などを大量購入すると、さらにはかっぱ橋に出向いて寸胴鍋とレードル、麵茹で用のデボザルなどを購入。

「面白くなっちゃいましたね。ただ、僕はラーメンが好きでもあんまり食べ歩くことはしない。美味しいラーメンをたまに食べても、『ああ、これはサバ節を少し入れてるね』とか、『美味しんぼ』の山岡士郎みたいなことは一切言えない。それが逆に良かったのかもしれない。
どこの店の味も、誰の作り方も参考にしないで、食材の組み合わせだけで自分が作りたいスープに辿り着こうという究極の楽しみができるわけですからね。
ベースは丸鶏。じゃあ香味野菜はどうする。煮干しじゃなくて鰹節にするか。タレの醤油はどの醤油にする。煮込みの時間は。昆布を入れるタイミングは。ラーメンはほんの少しの変化で味が劇的に変わるんです。発想と実験の愉しい日々が始まりました」

そこから3年ほど、アパートの一室でラーメンの思索と研究が始まった。