「店の歴史を描いた本を最後にここで売る」伊野尾宏之店長が模索する『伊野尾書店』閉店の向こう側

伊野尾宏之氏(C)週刊実話Web

村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」、今回は東京・新宿区の中井駅前で『伊野尾書店』を経営する伊野尾宏之氏のインタビュー(後編)をお届けする。出版不況に抗い、独自のフェアやイベント、SNSでの本に関する情報発信を続けてきた同店は来年を3月もって閉店するが、その軌跡を追った。

「ああ、これがお別れ需要というやつか」

「伊野尾書店が閉店する」という一報が出て以降、ネットには閉店を惜しむ人のコメントが並び、店舗にも何人かの人が訪れたという。

「皆さん惜しんでいただいて。『店長さん、ネットで見ました。閉店するのですね。寂しいです。私、本は絶対Amazonではなく本屋で買うと決めているんです。いい本屋さんが無くなってしまうのは残念です』…って、初めて見た顔の人が何人も。
多分、あちこちの閉店する本屋で同じこと言ってんだろうな。ああ、これがお別れ需要というやつか、と。シーズン中、気にも留められなかった美馬学(プロ野球ロッテ)が引退する途端『もっとやってほしかった』と惜しむアレですよ。閉店までの半年はプロレスラーの引退興行になるのかな。常連の方は逆に何も言いませんね」

閉店の準備は進んでいた。引退興行をやる予定は今のところない。普通の人が“気に留めなかった”期間もやるべきことはやってきた。伊野尾がこの閉店を引退登板で右ひじの腱を断裂するまで腕を振り続けた美馬に例えたのは、やりきったという表れでもあるのだろう。

「NET21の加盟店も最盛期は40店舗以上ありましたが、今は半数以下まで減っています。町場の書店は今も頑張っているところはありますが、僕から今言えるのは『無理して死なないでね』っていうことだけ。周りの人が何を言おうが、自分と家族を大切にしないと。実はうちも2018年に一度閉めようと思ったことがありました。そのときは“まだ改善の余地がある”と踏み止まってそこから7年やった。お店を取り上げてもらう機会が増え知名度は上がったプラスはあったけど、だからと言って出血は止まらない状態だから、もう足を切るか、腕を切るかの決断になりますよね」

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