「店の歴史を描いた本を最後にここで売る」伊野尾宏之店長が模索する『伊野尾書店』閉店の向こう側

それでも人は本を買わない

『伊野尾書店』(C)週刊実話Web

イベントなどで一時的に知名度は上がっても、生命線である何もない平日の売り上げは下がる一方だった。売り上げが下がれば運営費を切り詰めなければならず、どれだけ工面しても、続けた先の未来は見えていた。

「頑張っている書店さんも『イベントやります』と人を呼ぶアクションビジネスに振れていっています。従来のやり方がもうダメなのは分かるけど、純粋にいい本を取り揃えている本屋でさえ、みんな褒めているのに行かない。
誰かがラジオで言ってました。文化や芸術活動を支援する企業メセナみたいに大企業が収益の一部を本屋の活動資金に充てればどうかと。そんな提案をしたくなるぐらい残ってほしいけど、収益が出ない商売ならではの腸捻転みたいなロジックですよね。本はいいものであり、本屋も残ってほしい気持ちはみんなある。だけど、現実的な解決策には至っていない」

本は知識の泉であり、人類の叡智の結晶。そして、それを扱う書店とは新たな可能性に出会える無限の宇宙――そんなことは、誰もがとうに知っている。買わなければ、行かなければ、それらが失われてしまうことも分かっている。

だが、それでも人は、本を読まない。『週刊実話』も買わない。たまたま欲しいと思い、書店で購入しようと思っても、便利さと「週刊実話、置いてないことあるし」なんて言いながら、いつもネットの購入ボタンを押してしまっている。

いつからだろう。情報や活字の娯楽へお金を払うことに抵抗感が出るようになったのは。いつからだろう。本屋で本を買うときの慈善的な気持ちを否定できなくなっているのは。