「神の国」「寝ていてくれれば」「アレは事故でしょ」失言、放言のオンパレードだった森喜朗の素顔

英国紙「秘密主義のなかで誕生したトップリーダー」

一方で閣僚としての森は、文部大臣を務めたことで「文部族」のボス的存在ではあったが、大蔵大臣、外務大臣などの枢要ポストの経験がなく、伴って政権構想らしきものを披瀝したこともなかった。

なるほど、英国のガーディアン紙などは、「(旧ソ連における)クレムリンのような秘密主義のなかで誕生したトップリーダー」と報じていたのである。

さて、その森は学生時代にラグビーをやっていただけに、首相になった頃は体重も100キロを超えるほどの巨躯だったが、神経は意外に“こまやか”だったという逸話がある。

「森は体がデカかったこともあり、親分の福田赳夫が田中角栄と対決する“角福総裁選”のときは、福田派の切り込み隊長格だった。しかし、記者の対応には、じつに几帳面に答えてくれた。なかなか愛想もあり、中堅議員の頃は記者から評判がむしろよかった」(元福田派担当記者)

「じつは潔癖症、整理魔で、これは若いときからです。身仕度はもとより、自分で整理しないと気が済まない。私の机の上が散らかっていたりすると、黙って整理しておいてくれます。あるいは、明日着る下着や洋服は、自分で枕元に置いてからでないと寝まないのです。
下着などは、着る順番どおり並べておかないと怒りだしますよ。私も時にはカチンときて、『そんな細かいこと、男の人は言うものじゃありません』と言い返すこともありました」(森の妻・智恵子/『週刊宝石』平成12年6月29日・7月6日合併号)

しかし、そうした森の隠れた“こまやかさ”は、残念ながら政権で生かされることはなかったのである。

(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」10月16日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。