「キャンディーズは青春というより生涯事業」伊藤蘭ファン歴50年“全ラン蓮代表”石黒謙吾の生き様

小松駅で出会った“ガロ”のひと言で人生が変わった

ブラウン管の向こう側には『8時だョ! 全員集合』。その大舞台に初めて登場した、まだレコードデビュー前の3人組の女の子たち。

12歳の石黒少年は、この年上の都会のお姉さんにひどく心を奪われると、同年9月に発売したデビュー曲「あなたに夢中」と言わんばかりに、キャンディーズに心酔していく。

とはいえ、インターネットもない時代。情報はテレビとレコードに『平凡』『明星』などの雑誌だけ。

それだけでも十分に幸せだったが、中学卒業直後の’76年4月1日、金沢市観光会館のコンサートで初めて生で見たキャンディーズのステージで「ハート泥棒」に会ってしまった石黒少年は、教科書よりも大事な生きていくための力を得ていく。

「元々は生まれ育った金沢から一歩も出る気はなかった。将来は地元の金沢美大を出て美術の先生になるつもりでね。
ただ、中学のときにキャンディーズに出会ってしまい、ランの母校だった日大二高の願書を取り寄せた。
東京で自活していく方法を考えたけど、どう考えても無理で、諦めて地元の星稜高校に入った。
ところが1年1組の後ろと隣になった男が熱狂的なキャンディーズファンで『3人で全国をバンバン回ろうぜ』となった。
夏休みに入る直前かな、小松駅で到着待ちをしていると、東京から来た大学生らしき人に『俺らもキャンのファンなんだけどさぁ』と標準語で声を掛けられた。
『ガロ』みたいな長髪にベルボトムのジーンズ。業界人然としたあか抜けた男は驚いたことに1つ上の高校生だという。
さらにガロがこんなことを言うんだ。『この前のヒットスタジオでランが、俺があげたネックレスしててさあ』。そのひと言で、完全に俺の人生は変わった。
金沢にいたら一生こんなことは起こらない。そこからだね、本気で全国を回る、そして上京する決心がついたのは」

覚悟を決めた少年はその夏休み、カッターで右腕に「RAN」、左腕にキャンディーズと彫り刻み“蘭命”という生涯の誓いを立てた。