孤高の政治家・橋本龍太郎とは何者だったのか? 田中角栄にも一歩も引かない「橋龍ダンディズム」

首相官邸HPより
永田町取材歴50年超の政治評論家・小林吉弥氏が「歴代総理とっておきの話」を初公開。今回は橋本龍太郎(下)をお届けする。

「竹下先生、あなたは“明智光秀”になる気ですか」

自らの信念は頑として譲らず、正義感は人一倍の橋本龍太郎に噛みつかれた政界人は大勢いたが、のちに田中派を継承した実力派の竹下登にも“一撃”を厭わなかった。

時に、ロッキード事件での田中角栄の逮捕に際し、竹下が「田中の時代はこれで終止符を打った」とばかりに、田中派内の若手を糾合しようと会合を持ったことがあった。

すると、この会合にあえて顔を出した橋本は、臆することなく竹下に言い放ったあと、座を外してしまったのである。

「竹下先生、あなたは“明智光秀”になる気ですか」

橋本は師と慕う田中がロッキード事件で苦境に立つなか、わざわざ若手の会合を持つなど、なぜ派閥を乗っ取るような動きをするのか、それは織田信長を裏切った明智光秀と変わらないではないかと、正義派らしい物言いだったのである。

さすがの竹下も「明智光秀」にはほとほとこたえたようで、若手との会合はこれをもって打ち切り、以後、橋本に加わった新たな異名は「田中角栄の森蘭丸」であった。

また、この「橋本蘭丸」は「田中信長」にも、噛みついたことがある。医科大学のない県を解消するため、田中が全国的に医科大学を置こうとする計画を示した際、厚生行政にうるさい橋本は「時期尚早でしょう」と迫ったのだ。

これには田中も譲らなかったが、自信家の橋本は党幹部にこう言ったという。

「ぼくは間違っているとは思ってないですよ」

あの権力者の田中に一歩も引かぬ男は、橋本をおいていなかったのである。

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