田中角栄の逮捕で号泣 橋本龍太郎は“心優しきモテ男”か“怜悧傲慢な政治家”か

首相官邸HPより
永田町取材歴50年超の政治評論家・小林吉弥氏が「歴代総理とっておきの話」を初公開。今回は橋本龍太郎(中)をお届けする。

あだ名「かまいたち」の由来

「橋本はカミソリの切れ味が魅力だ。しかし“刃こぼれ”の懸念がある」と評したのは、橋本龍太郎が師と仰いだ田中角栄だった。

「カミソリの切れ」とはIQの高さを指しているが、なるほど、永田町の橋本に対する人物評は毀誉褒貶に満ちていた。あだ名、陰口の多さが、それを物語っていたのである。

自信たっぷりで怖いものなしに肩で風を切って歩く姿から「風切り龍太郎」のほか、政策通で与えられたポストをきっちりとこなす「仕事師」といった一方で、「並々ならぬ正義感」「変わり者」「自信過剰」「挑戦的」「怜悧」「傲慢」の声の集大成として、「かまいたち」のあだ名があった。

そのうえで永田町指折りの「美男」だったことも手伝って、女性にモテモテの艶福家として知られ、料理屋の女将、ホステスなどとの交際があまた見られた。

後年には情報部員ともされた中国人女性との「関係」が報じられて、物議をかもしたこともある。

田中派時代の橋本と気脈を通じていた政治部記者が、かつて橋本のモテる理由を語っていた。

「男性には厳しく接するが、女性にはとにかく優しい。また、涙もろさも人一倍で、女性はそのあたりに参ってしまうのだろう。
ロッキード事件で田中が逮捕された昭和51年(1976年)7月27日の朝、『田中の一の子分』を自認していた橋本は、平河町にある砂防会館3階の田中事務所へ真っ先に出向いた。
事務所には田中派議員が続々と集まってきたが、皆、硬い表情で口数も少なかった。しかし、ただ一人、橋本だけは人目をはばからず泣きじゃくっていた。
女性との付き合いでも、同じような感じだったのではないか。素でこんなことをやられたら、女性はなんとも弱いということじゃないかナ」

そうした涙もろさは、どうやら橋本の生い立ちに原因があったとも言える。根は優しいのである。

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