田中角栄の逮捕で号泣 橋本龍太郎は“心優しきモテ男”か“怜悧傲慢な政治家”か

「悪いことをしたら、捕まるのが当たり前だ」

「悪いことをしたら、捕まるのが当たり前だ。国民は田中氏が逮捕されて、むしろよかったという気持ちではないのか」その会が終わると、出席していた橋本がツカツカと近藤のもとに近づき、「貴様、さっき何と言った!」と一喝、胸ぐらにつかみかからんばかりに迫った。

この会合を取材していた元田中派の担当記者は言っていた。

「4〜5人が間に入って取り押さえ、大事には至らなかったが、橋本はなかなか収まらなかった。
田中が逮捕されたことで、三木(武夫)をはじめ同派の連中が、いかにも鬼の首でも取ったように喜んでいる。橋本とすれば我慢ならず、怒りが爆発したのだろう。
とくに近藤は、三木派のなかでも田中にかわいがられていた人物で、田中事務所にもよく出入りしていた。
それだけに、橋本としては『田中のオヤジをバカにしおって』と、持ち前の血の気の多さが爆発したのだろう。橋本“かまいたち”に一撃をくらった近藤は、しばし橋本のそばには近寄らなかった」

田中の反目を買いながら、最終的に田中派を継承したのは竹下登だった。

結局、橋本も竹下派入りすることになるのだが、この竹下もまた、橋本の一撃をくらうことになるのである。

(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」9月11日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。