衆院議員1年生の橋本龍太郎は紅顔の美青年だった 自民党に現れた“若武者”伝説

若くして“先見の明”もなかなかだった

こうした橋本は単に美男子、カッコイイというだけの男ではなかった。とにかく頭の回転が早く、そのうえ勉強家だったから、政策の立案や実行に精通しており、就いたポストでは着実に足跡を残したのである。

例えば、若くして厚生政務次官に就任するや、厚生省内の反対を押し切って将来の環境行政の必要を訴え、その後の環境庁(現在の環境省)設置への先導役を果たしている。

若くして“先見の明”も、なかなかだったのだ。

頭脳明晰ぶりについては、名門・麻布中高時代の同級生が、次のような証言をしていた。

「麻布時代の成績は飛び切り上ではなかったが、橋本は“本の虫”だった。
あらゆるジャンルを読みこなし、なにしろ4冊くらいを同時進行で読み、どのページに何が書かれていたかをハッキリ交通整理していたから凄かった。
当時のあだ名は、タコ。ひとたび相手に議論で吸いついたら、そう簡単に離れないことから来ていた。
筋を通さなければ絶対に我慢ならない性格で、それは大人になってもまったく変わらなかった」

橋本が師として仰いだ田中角栄は、その炯眼をもってこう評したものである。

「橋本の仕事を見ていると、カミソリの切れのような魅力がある。ただし、“刃こぼれ”の懸念もある。そこは要注意だ」

(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」9月4日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。