「いまの石破内閣に似て、少数与党の苦渋を余儀なくされた」羽田内閣が戦後2番目の64日で終わったワケ

「『平時』などという言葉は存在しない」と田中角栄が檄

政治の世界に限らず、リーダーシップには要諦がある。例えば“庶民派”を標榜する企業の社長がいるとする。改革にも熱心で人柄またよし、バランス感覚もある。

そのうえで部下への接し方も、小難しいことを押し付けることがなく、もとより尊大ではない。部下の誰もが親近感を持つというタイプである。

しかし、ここで欠落と指摘されかねないのは、トップリーダーとしての権威である。この場合の権威とは、ある種の畏怖と置き換えることができる。

昭和44年(1969年)12月の総選挙で、羽田と小沢はともに初当選を飾った。選挙の指揮を執った時の田中角栄幹事長は、「この2人はワシが育てる」と口にしたが、一方で田中派の若手議員には、こうも檄を飛ばしていたのだった。

「政治の世界もビジネス社会も、常在戦場。『平時』などという言葉は存在しない。競争、牽制が常に付いて回る世界だ。神経を研ぎ澄ませていないでどうする。世の中は甘っちょろくはないぞ。ボヤッとしている暇など、あるわけがないッ」

二世議員の羽田は部下からの畏怖が物足りず、政権が苦境に立ったときの「ねばり」がない。そのあたりが、いわゆる叩き上げの議員と大きく違う点である。

(本文中敬称略/完=次回は村山富市)

「週刊実話」8月7日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。