占領下の東京で無人電車が暴走 国鉄3大ミステリー“三鷹事件”に隠された戦後80年の闇

指紋に関する証拠はなぜか一切なし

同様に2両目最後尾のヘッドライトがついていた事実も1両目の操作だけでは説明がつかないが、後藤裁判長は「もともとスイッチが入ったままだった可能性がある」。

いずれも自白通りに列車を発車させることはできるのかという最重要なポイントのはずだが、主任弁護人の野嶋真人弁護士は「裁判所は自分たちのストーリーを構成して科学的な証拠に基づく検討をしているとは言えない」と厳しく批判している。

そもそも確定判決が規定する無人電車の操作には謎が多い。

電車を動かすには運転台のコントローラーの鍵を開け最大速度になるまでハンドルを回さなければならないが、検察は当初、運転台の下に落ちていた釘で鍵を開けたと想定したものの、取り調べの過程で突如、針金に変更。

駅構内に落ちていたとする200本以上の針金を証拠提出し「このようなもので鍵を開けた」としたが、捜査でも公判の過程においても本当に針金で鍵が開けられるのか検証された形跡はない。

さらにハンドルがバネで元に戻るのを防ぐため紙紐で固定したとされ、確定判決も「左手でハンドルを押さえたまま右手だけで紐を結んだ」との竹内の供述を引用しているが、右手だけで結ぶのは極めて困難と疑問視する鉄道関係者は少なくない。

しかも紙紐の先端は「コイル捲き」という極めて特殊な結び方がされており、竹内は「こんな結び方は自分にはできない」と一貫して主張している。

そもそも確定判決でも供述調書でも、竹内は素手で運転台を操作したとされているが、ならば当然検出されるはずの竹内の指紋に関する証拠はなぜか一切提出されていない。

それでも後藤裁判長は「電車の発車方法に関する根幹部分の信用性に重大な疑いは生じない」と断じたほどだった。

戦後80年の謎(2)】へ続く

取材・文/岡本萬尋