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レポート『コロナと性風俗』最終回「埼玉・西川口」~ノンフィクション作家・八木澤高明

レポート『コロナと性風俗』最終回「埼玉・西川口」~ノンフィクション作家・八木澤高明
(画像)SvedOliver / shutterstock

埼玉県の西川口といえば、風俗遊びが好きな男たちの間で本番行為で一斉を風靡した「NK流」の名で知られた街である。ところが、今から10年以上前に大規模な摘発が入ってNK流は壊滅し、ネオン街が衰退したことで潰れた風俗店の看板が目立つ、寂れた一帯へと変貌していた。

しかし、現在は中国人やタイ人といった外国人女性が働く色街として、復活しつつあるという話を聞き、足を運んでみた。このコロナ禍の下、女性たちはどのように日本に来て生活しているのか気になったのだ。

JR西川口駅の西口を出ると、目立ったのは中国本土で使われている漢字、簡体字の大きな看板だった。何となく理解できる文字もあるが、インターネットカフェを意味する「网吧」などは、日本人にはまったく理解できないものだろう。中国語の看板がこれだけ堂々と出ているというのは、かなりの数の中国人が出入りしていることの証しだ。

駅から3、4分ほど歩いた場所に、中国料理店が軒を連ねていた。やはり、看板は簡体字が使われていて、日本人の客など相手にしていない雰囲気が漂ってくる。日本のチャイナタウンというよりは、中国本土の路地に迷い込んだような気になってくるのだった。

私は、西川口の変貌ぶりに驚いていた。いつからこんな状態になったのだろうか。西川口の風俗に詳しいライターの中津氏が言う。

「風俗街の一斉摘発があった駅西口では、風俗店だったテナントがぽっかり空いたりしたせいか、多くの飲食店も連鎖的に潰れて寂れた印象でした。しかし、時を同じくして、西川口駅からほど近い巨大団地に多くの中国人が住むようになり、その人間を目当てにした中国人経営の飲食店が並び始めたんです。ハナから中国人のことしか相手にしていない店が多いですね」

中国人の代わりに働いているタイ人

飲食店などができて街が徐々に活気を取り戻すと、摘発後ももともとあったソープランドなどは営業を続けていて風俗街の空気は残されていたことから、中国人やタイ人の女性が働くエステやデリヘルなどができたという。風俗営業のハードルが低いこともあったのだろう。

それが、このコロナ禍となり、風俗店にどのような影響が出ているのだろうか。

「中国エステに関しては、ちらほらと潰れる店がありました。一番の原因は、女性たちが帰国してしまったからです。コロナ前の中国エステは、留学生ももちろんいましたが、メインは3カ月の観光ビザで来日して違法に働く女性たちでした。しかし、その女性たちが来日できなくなり、店の営業が難しくなったんです。かろうじて営業できているのは、学生を使っている店ですね。私が知る限り、西川口には福建省出身の子が多いんですが、現地で訪日を斡旋している会社には、留学ビザを隠れ蓑として日本での売春を斡旋しているようなところもあるんです」(中津氏)

一方で、これまで取り上げてきた色街と同様に、消えた中国人の代わりに働いているのが、タイ人だった。

デリヘルで働いているというタイ人女性のミューに話を聞いた。年齢は、見たところ20代前半。小柄で目がぱっちりしていて、日本人に人気が出そうな顔立ちの女性だ。友人のタイ人がいたことから、ミューは西川口で働きだしたという。

私が気になったのは、彼女のビザについてだった。その質問に対し、逡巡するような雰囲気を見せつつも、正直に打ち明けてくれた。

「実は実習生として来日して工場で働いていたんです。そこを逃げて、この仕事を始めました。逃げた理由は、毎日朝から夕方まで仕事をしたのに、給料が10万円ほどだったからです」

女性たちはたくましく生きている

今の時代、ネットを通じて情報交換がしやすくなったこともあり、女性たちは自分にとってより良い環境があれば、躊躇いなく移動するのだ。さらに、どこに暮らしているのか尋ねると、思わぬ答えが返ってきた。

「今は友達と駅から近いホテルに暮らしています。一泊4000円ぐらいなので、アパートを借りるよりも安いんです」

聞けば、有名なビジネスホテルだった。考えてみれば、マンションで暮らすより人目につかず、不動産会社とやりとりする手間もない。何よりコロナ禍で、ホテルの宿泊料金が安くなっているので、マイナスな点は何もないのだそうだ。

仕事の方も、コロナの影響はなく、順調だという。

「朝までは働きたくないので、いつも夜の12時には終えています。それでも1カ月で最低30万円は稼げるので十分です。仕事を終えてから、友達と新宿のクラブに行ったりして、毎日楽しいです。日本では、いろんなところに行きたいと思っていて、ゴールデンウイークは北海道へ行きました。タイにいた頃から、札幌でラーメンとかカニを食べることが夢だったんです。今度は雪が降っている時期に行ってみたいですね」

彼女のスマホには、友人の女性と行った札幌での写真が何枚も保存されていた。日本での生活を楽しんでいるミュー。あと2年近くビザがあるので、この暮らしを続けるという。

西川口の風俗街は、大規模な摘発を経て、新たな形で生まれ変わった。このコロナ禍にあっても、女性たちはたくましく生きているのだった。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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